ご無沙汰しております、ふじみるです。
懐具合も一段と厳しくなって、
消費税の存在を苦々しく思っている今日この頃ですが
たまに『北の国から』を肴に一杯やると
気持ちが落ち着くんですね。
66歳のおやじのささやかな愉しみとお笑いください。
『北の国から 2002 遺言 前編』をご紹介して3つき余り、
やっとこさ後編を書きあげました。
我ながら、時の流れに無頓着な勝手な男と諦めています。笑
何回か視聴された方もいらっしゃると存じます。
それでも、敢えてご紹介させて頂きます。
我儘そのものの、意地。
男というものはいつまでたっても可愛い。
そうじゃありませんか?
是非おつきあいください、とは申しません。
長いです。眼が疲れます。眠たくなります。
すいません。
目次
・知らぬが仏
秋も深まる10月末のころ。
「出会い系サイト」の信じたくないからくりを
無理やり知らされた雪子おばさんちの大介が、
ひっそりと富良野から去っていった。
あとで知った蛍にとっては何でもない。、
それより、あの夜はショックな出来事になった。
救急車で搬送された患者が
中畑のみずえおばさんだったのである。
「急に苦しみだして」
なかちゃん(中畑和夫)が付き添って来ていた。
緊急措置を終え、レントゲン写真を見つめる医師。
そこへ蛍は帰ってくると
「癌が完全にまわっちゃってる」
はじめて聞いた、みずえおばさんの病状に
蛍は軽い反応を浮かべたように見えた。
「ご主人には、ひと月まえ告知した。本人はご存知ない」
「はい」
頷き、微笑んで。
待合室でなかちゃんは蛍を待っていた。
「親父さんには、もう知らせたんだ」
「・・・」
中畑は五郎にだけ、すべてのいきさつを話していた。
「みんな、どこまで事情を知っているか知れんが
頼みもせんのに、毎日、手伝いに来てくれている」
蛍の眼が濡れひと粒の涙がこぼれた。
中畑の娘すみえの新居を、女房のみずえに見せてやりたい。
その思いは知り合いの人たち全員の祈りであった。
・弟子入り
拾ってきたガラクタを組み立て、汗を流すみんなの顔顔顔。
娘のためなら
「え~んやこりゃ!」
奥さんのためなら
「え~んやこりゃ!」
夜、居酒屋で
あの梅干し丸のみ療法を教えた仲間の成田と
五郎が一杯やっている。
なかちゃんの身内話を肴に飲むうち
察しのいい成田は遺言の教えをのたまうのである。
あれは残してやる財産がある人の書くもの
「おいら、なんにもないもんね」と、五郎。
待ってましたと得意げに五郎をねじ伏せる成田。
自分の体験談を熱っぽく語り、最後の〆。
「とにかく書けっ。いい先生を紹介する」
鉛筆を舐め舐め
眠い目をこすり
一生懸命に書く五郎。
ポキ。
鉛筆の芯が折れた。
「素朴でいいじゃないですか」
先生のひと言に身を固くして照れる五郎。
「ただ、残してやるモノはあるはずです。
そこをよく考えてみてください」
「は」
「書き直して三日後に見せてください」
「わかりました・・・あのう、先生」
五郎が心配していたのは
入門するための謝礼であった。
ところが、先生は人格者であった。
逆に、五郎に入門を頼んだのである。
捨てられたモノばかりで家を建てるあなたに
前から尊敬の念を抱き、その方面の
「師匠として、こちらこそ入門をお許し願いたい」
二人の偏屈同士はお互いの入門を果たした。
一本の釘を慣れない手つきで打ち込んだ先生。
「お上手じゃないですか、先生」
五郎が褒めちぎる。
鉢巻きをして遺言に精をだす五郎。
「羊は純にやる。・・・あっ、快を忘れてた」
弟子であり先生、師匠の関係も謝礼金無料の甘えん坊ふたり。
だんだん本音がぽろぽろと。
「へったくそだなあ!ここは丁寧にセメントを流すんだ」
傍で仲間たちは、触らぬ神に祟りなし。
「羊にこだわりすぎてます。それに、誤字脱字が多すぎる」
当たってるだけに、悔しさ憎さの五郎。額のシワが深く深く。
仕事をとおして人間関係は矛盾だらけの仲間になっていく。笑
・旅の男
だんだんと形になってきた、すみえの新居を
先生も含め仲間たちが五郎の指揮のもと精を出している。
その光景を、目を細めて眺めている男。
真っ裸で、純と海辺の露天風呂に入ったあのトドだ。
「そこのおっさん」
五郎が指図する。
トドは戸惑いながらも手伝う。近所のみんなに溶け込んで。
日も暮れ、てんでにみんなが帰っていく。
アスファルトのかけらを持って地面に組み込んだり、と
漁師のトドはまだがんばっていた。
「あんた、まだいたんかい。もう帰っていいよ」
てっきり近所の人と思い、お茶を入れてやる五郎。
聞くと、ただの旅行者と知りあわてて頭を下げた。
つくづくと五郎をみるトド。
「あんた、すごいな」
捨てられたモノばかりで家を建てていく。
そのざまを目の当たりにしたトドは言った。
近所のみんなが助け合っていく。
日当も無い。働いた分は働いて返す。
金もモノも受け取りはしない。手間返しと云う。
小雪が舞ってきた。
話すうち、気心が通う。
何気なく、家に泊るよう五郎はすすめた。
「あんた、すごいいい人だな」
あらためて自己紹介におよんだ。
「わたくし、高村いうもんです」
「黒板です、みんな五郎と呼んどります」
石の家にたどり着いた時
「このうちも、あんたが一人で?」
暖炉の火は酒を旨くしてくれる。
しみじみと酒を酌み交わすふたり。
亡くした女房、看護婦の娘、そして
借金で富良野におられんようになった息子。
高村は興味深い視線を向ける。
「兄貴のように慕っとった男が死んで、牧場を継がされたんです。
そこがえらい借金抱えとって・・・倒産でした」
何度も何度も思い起こす息子がかわいそうで。
涙ぐんだたれ目を高村に返し、五郎は
「まあ。人生にゃ、いろいろあるですよ」
酒をふくみ、上を向いてうなずく高村。
窓から雪がみえる。
五郎は、自慢の風呂を高村にすすめた。
・招待状
けたけた笑いながら純の首を締める草太の幽霊。
「帰ってこい、富良野に帰ってこい」
「帰って来れないようにしたのは草太兄ちゃんだぞっ」
携帯の着メロが冷やかすように悪夢を笑った。
結からだった。が、途中でトドが割って入った。
「明日の朝、5時に迎えに行く」
いつも強引なトドであるが、何故なの?
純は不思議に思った。
知床の冬の海をトド打ち猟の小舟が渡る。
スケソウダラ。乱獲。バブルのつけ。
森はしっかりしているのに
「海はたまらん」
高村という一人の漁師のため息がもれる。
遠慮がちに純が訊いた。
「あの、トドはいつくるんですか?」
「もう間もなくだ。流氷が来る前にトドはくる」
「あの、誰かに聞いたんですが、
トドはハーレムをつくるって本当ですか?」
「百以上のメスに一匹のオスだ。
繁殖期のあとは、オスはげっそりだ」
力を入れて人間高村は語った。
「ははは」
「嫁とはもうやったか?」
「いえいえとんでもない、まだやってません」
小舟の周りのカモメたちがやかましい。
「お前のオヤジさんは流氷を見たことがあるか?」
「いいえ、ないと思います」
「ないならどうして呼んでやらん」
「え」
「ここまでお前を育ててくれたんだろうが」
「もうじき、この海に流氷がくる。
流氷が来たら、すぐお呼びしろ」
「はい」
晩。
手紙を書いている純。
その脇には交通費のお金が。
富良野。
お金の入った手紙を見つめている五郎。
とんとんとん。
小気味よく響く五郎の手慣れた大工仕事がつづく。
静かに入ってくる、なかちゃん。
言葉は交わさずとも、二人にはわかる。
「みずえが春まではもつまいと言われた」
中畑を見つめる五郎の眼に光る涙。
「家の完成まで、あとどのくらいだ?」
「1週間で、何とか形にするよ」
「頼む」
「あいつはこの新居を楽しみにしとる。
具合のいい時を狙って、出来上がったこの家を見せてやりたい」
「分かった。・・・ここの事は俺らに任せろ。
お前は、みずえちゃんに出来るだけついてってやれ」
「すまん」
『純。おまえの招待状受け取った。嬉しかった。
送ってくれた金を使って、俺はこの冬羅臼へ行かせてもらう。
流氷を見るのは初めてだ。今、やってる仕事が終わったら・・・』
・帰ってきた夫
読んでいるところへ、結が駆け込んで
「寒いっ」
「火にあたれば」
「うん。遅いから今日もう帰るね」
「富良野の親父から手紙きたんだ。流氷来たら羅臼くるって」
「私のこと、言ったの?」
「まだ言ってない」
心配顔で純をのぞき込む結、、、転換はやく、笑顔でおどけ
「ドキ。ドキ」
純の頬っぺを片方づつ突っついた。
結の唇がそっと純を求めていく。
番屋の窓にキッスのシルエット・・・
カチッ。
車の中に火が点く。
外に出てきた結は名残惜しそうに番屋を振り返る。
窓辺に純の影を認めると、そこらの雪を拾い
「あー」と愛しく唇にあてると天に放った。
煙草をくゆらせ、その光景をじっと見ている車の男。
結の車が去っていく。
男の車のヘッドライトが眩しく輝いた。
飲み屋街を男がゆっくり歩いて行く。
「ワン、ワン」
どこからか、一目散に駆けってきた野良犬は
ク~ンク~ンと懐かしそうに男にじゃれついた。
居酒屋の暖簾をくぐった男に悪友たちが取り巻く。
飲んでいた純の先輩、寅が気配に目を丸くした。
・・・弘!
「わかった。ありがとう、うん気をつけます」
不安げに携帯を切る純。
翌朝。
漁から帰ってくる漁船の群れ。
荷揚げ作業に忙しい人たちの活気が熱い。
一緒に働いている女が結をうながすと、
あの弘が、手を振った。
結は見ただけで無視する。
高村水産の加工場では、皆が魚のさばきに汗を流している。
社長の高村も忙しく陣頭指揮を取っていた。
はらわたを捨てに出てきた結の前に突然現れた弘。
「帰ってきたぜ」
結は相手にしない。工場に向かう。
「待てよ」
「話があるならお父さんとして下さい」
結を追いかけ、こぜりあう二人。
「あなたとはもう、関係ない筈でしょう」
「戸籍上はまだ夫婦の筈だがな」
「戻ってこようかなと思ってんだ」
きっぱり結が言った。
「私は全然そんな気ないわ」
「男ができると強気になるんだな」
凍る結。
蛇のように冷たく絡む弘。
「誰だあいつは、、、どこのガキだ?
話しつけよっか、俺が直接。ヒトの女房に手を出すなって」
「そんなことしたら、、、タダじゃおかないわ」
「おもしれえじゃないか、どおしようってんだ」
ひるむ結、言葉が出ない。
獲物はこっちのもの。呑む寸前の蛇は舌をチラチラ。
「ま。尖んがらないで話ししようぜ
サンペんとこ泊まってくから、今夜」
「お父さん呼びましょうか」
弘の顔色が変わった。
「中にいるわよ」
呆けたような弘を残して工場へ向かう結。
燃え盛る焼却炉へゴミが吸いこまれていく。
その現場で作業をしている純と寅。
携帯が純を呼んだ。結からだった。
別れたご主人が帰って来ていて、
何するかわからない人だから、
気をつけるように、って言ってきた。
ドキドキしながら運転する純のくわえ煙草に
寅がニヤッと笑って火を点けた。
番屋に純が帰ってきた。
引き戸を開けると、奥に
鬼の形相の3人が待ちかまえ
ぬっと、もう一人の男、弘が目の前に現れる。
と、いきなり純の腹を殴り顔面を蹴った。
倒れ込んだ純を引きずり起こし、外へ。
キラキラ輝く海面を背景に雪原のリンチが続く。
「お前か。ヒトの女房に手を出してんのは」
「どなたですか?」
ボコボコにされた純の絞り出す声に煽られて、
弘は純をもてあそぶ。髪を掴んで引っ張り回し
「どなたですか?」
と、思いきりのボディブローを喰らわせた。
釣られるように仲間らの殴る蹴るの嵐が。
弘の素手のストレートが純の顔面に決まる。
倒れた純を、殴った手をひらひらさせながら見やる弘。
仲間らの嵐は容赦なく続いて・・・。
血反吐を吐き身動きさえままならない純。
月光仮面の登場であった。
『ウワオオッ!!』 吠えるトド!!
弘が仲間らが月光仮面の獣性に圧倒された。
あっという間に仲間らを蹴散らせ
弘は鉄拳3発でノビた。
「だらしねえ野郎だ」
肩を落として去っていく息子に言ったのか?
ぐったりしている純に向かって言ったのか?
「少しは」
走りながらトドは叫ぶ。
純の首根っこを掴み起こして
「戦えっ」
「おいっ
人の女房、ぶん取りてえならな
そのくらいの覚悟と気概くらい持つもんだ!」
捨てるように言って、純を置き去りにするトド。
ひとり、残された男が味わう敗北感が男を男にする。
・決着
ばんばんばんっ
番屋の戸板を激しく叩く結。
「いるんでしょ、純ちゃん。開けてよっ」
「勘弁してくれよ・・・」
やっとの思いで言葉にする純の痛々しい顔面の傷。
「開けてよ、お願い純ちゃん。出てよ」
「顔がひどすぎて、見せたくないんだよ」
「見せて。あいつにやられたの?
純ちゃんお願い、ケガ見せてっ」
叫ぶ結の声には真剣な思いやりがある。
のそりのそり半身を起こして
「結ちゃん、あの人今どこにいるんだ?」
「どこにって?」
「あんたのご主人だ」
「どうするの?」
「どうもしねえよ」
ただ会って話をしにゆく。それだけ。
純の開き直った捨て身の決断であった。
嫌なこと、面倒なことからいつも逃げていた。
そんな自分が自分でイヤになった。だから、
面と向かってとことん話をしたい純だった。
「そんなこと聞く相手じゃないわ、またやられるわ」
またやられてもいい。殴られてもいい。
それでも話をする。一人で話に行く。
格好つけてる暇なんかない!今、やるしかない!!
「わかった。それじゃあ、私もいく」
純は断るが、
「駄目。一緒にいく。絶対一緒に行く!
私も、きっぱり話をつけたいから」
結にほだされる純であった。
戸板の鍵を外して開けた。
息を呑む結。
「・・・一緒にいく」
番屋から出て、車の方にスタスタ歩いていく結。
後ろ手にライフルを持っていた。純はそれを見た。
闇の中を疾走する車。
「実弾入ってるの?」
「入ってるよ」
タイヤが泣き路上の雪片をかろうじて避けた。
「結ちゃん、切れるヒト?」
「時々。ごくたまに」
ハンドルを握る結の眼は座っていた。
弘の仲間の家の前に停車した。
二人が車を降りた。
純は足を引きずりながら。
結が先に入るのを制し、純は玄関を開けた。
昼間の面子4匹がいた。
純の出現に男たちが血相を変えて飛び出す。
「この野郎、何しに・・・!」
ライフルを構えた結が純の脇から入ってくる。
とっさにライフルを掴んで銃口を下げる純。
仲間ら3人が腰を抜かし「やめろ」の声が漏れた。
弘は立ち上がり、挑むように純と結を見つめた。
「違います。違います。、、、違います。
ただ俺、穏やかに、穏やかに話に来ただけです」
結はライフルを構える。
「あの、それに、もともと俺がいけなかったんです。
あの、結ちゃん、結婚してるなんて全然知らないで
本当です。神にかけて誓います。絶対、本当です。
知ったのは、それからもう、だいぶ後で
けど、そん時はもうどうしようもなくて」
弘が前に出るが、純はしゃべり続ける。
「やってませんやってません。本当本当、
何もやってません。本当、俺、清らかに何もやってません。
ですから、お願いします。お願いします。
あの、あらためてあらためて、俺、お願いします」
毒気も失せ、聞いている弘。
「あ、すいません。忘れてました」
純はコートを脱ぐと、その場に正座した。
「俺、黒板純というもんです。逃げも隠れもいたしません。
31歳、独身です。絶対、結ちゃんを幸せにします。
結ちゃんを、結ちゃんを、、、結ちゃんをください。
俺と、俺と結婚させてください!お願いします、このとおり。
お願いします。お願いします。結婚させてください。
お願いします。お願いします。結婚させてください。
・
・
・
額を何度も何度も床に押しつけてお願いする純。
身を乗り出して呆気にとられている弘。
ぽろぽろ涙を零しライフルを抱いている、結。
翌朝起きたら、番屋の前浜から海鳴りの音が消えていた。
そして羅臼に流氷が来た。
・流氷
流氷は翌日から海をおおい、羅臼の景色は一変した。
知床の山からオジロワシやオオワシが
獲物を求めて下りてきた。
風向きによって流氷は、アッという間に沖へ去り、
翌朝またぴしっと港いっぱいを埋めていたりした。
五郎が富良野からやってきたのは、
そんな二月の凍(しば)れる夕方であった。
バスから降りてきた五郎に深々と頭を下げる純。
うんうん。頷き、懐かしそうに両手で純の手を握った。
「どうしたんだ、その顔?」
「ちょっと転んで」
久しぶりの対面に純はちょっとだけ大人になり、
五郎は純からみると、かなり老けたように映った。
車から眺める羅臼の冬景色に五郎の浮き浮き感は隠せない。
番屋の煙突から夕餉を知らせる白い煙が昇っている。
前浜を歩いて呼びに行く純。
「飯の用意できたぜ」
「いやあ凄い、こりゃあ凄いよお」 五郎。
眼前に広がる流氷。その奥に魔の山のごとく聳える国後島。
・その夜
鍋を突っつきながら、一杯やっている二人。
「身体の具合どうなんだい?」
「うん」
「体調悪いって蛍に聞いたぜ」
「うん、まぁ別にどうってこたねえ」
「ア、快は?」
「可愛いぞ、これが。食べちゃいたいくらいだ」
「食べないでよ」
笑う二人。
「正吉は相変わらず連絡して来ないの?」
「うん、、、そのくせ、借金だけは・・・
キチンキチンと返しているらしい」
「・・・」
「お前の方は、どうなんだい?」
自分に腹をたてる純。
「サボってる。・・・返してねえんだよ、、、
我ながら・・・どうしようもないよ」
優しく見つめて頷いて、五郎は話すのである。
「三沢のじいさんにこの前会ったんだ。
お前の借金の話をしたら、
そんなこと忘れたって笑っとったぞ」
「・・・」
「じいさんこの前倒れてな。起きられなくてベットに寝たきりだ」
「・・・」
「お前に会いたいて、涙ためとった」
うつむいている純。
「本当にあの人は、仏さまみたいな人だ。
借金のことはともかく、お前、ーーー
会うだけ会ったらどうだい」
純。うつむいて、うなずく
なんども頷いて
「父さん」
「ん」
「そのことな。・・・今ずうっと考えてたんだ」
「・・・」
「このままじゃいけないって、ずっと思ってて・・・
何だか逃げてた気がしてきたんだ」
「・・・」
「おれいつも逃げてた。そう思うんだ。
今までずっと逃げてた・・・だけど、、、、
最近おもいはじめたんだヨ・・・
逃げたって始まんない。何も変わらない」
ふふふ。思わず息子を笑った。
ぐいっと酒を呑んだ。
「さ。一杯」
五郎は、酒をすすめた。
番屋の煙突から真横に流れる煙。吹雪く深夜だ。
布団を並べている二人。
ポツリと純、
「富良野に帰ろうっかって思ってるんだ」
「(見る)」
「帰って・・・今度こそ、身をかためようかって」
「・・・」
「じつはさ、・・・一緒になりたい人がいるんだ」
「ーーー」
「明日その人に会って欲しんだ。
その人と、その人の父親っていう人に」
半開きの口をとんがらせている五郎。
「いや、父親っていっても本当の親じゃなく、
じつはその人のご主人の親なんだ。
本当いうとその人結婚してんだ」
寝床から頭を浮かせる五郎。
「じつは去年の秋、鮭の遡上を見にいって
凉子先生に偶然会って、先生の家でその人に会って」
「待て待て待て待て!!」
五郎すばやく起き上がり、裸電球を灯す。
「お前の話、わかんねえ」
「イヤ」
「鮭とその人とどういう関係なの?」
「イヤ、鮭はもういいよ」
「人妻っていった」
「いったよ。だけど」
「人の奥さん!?」
「まだ正式にはね、けど」
「いかん! 純! それはいかん!」
「ちょっと聞いてよ」
・
・
・
純も悪い。
こんな夜中にあれやこれや前後左右、
いっぺんに話すのは五郎には身体に悪い。
姦通罪、不義密通などと親に心配させたらいかん!笑
(結の猟銃の件は、話さないで正解っ)
酒を飲んでる五郎。目に涙を浮かべている。
「父さんはやっと理解したみたいだった。
でも、どうして泣いているのか・・・わからなかった」
・遭難
朝。
震えながら五郎が海に向かって放尿している。
ふと、気配に振り返ると女が駆けて来ている。
あの人妻か?
番屋にすっ飛んで帰り、黒板親子は即席歓迎準備。
結が来て純は、五郎を紹介した。
ありきたりの結の挨拶。
かしこまった五郎の気取りといったらない。
しかし、そんなことはどうでもよかった。
結は純を外に連れだした。
「父が昨日から、トド打ちに出かけたまま帰らないの!」
純は五郎にその話をして、結と港へ急いだ。
あまりの急展開にポカンとするしかない五郎だった。
流氷の動きはつかめない。
人間は自然界に対して無力といってもいい。
トド打ち名人高村と舟を操る爺やんの小舟。
流氷に挟まれたら木っ端微塵だ。
五郎にトドをご馳走してやる。
高村の意気込みが遭難につながった。
二人の安否は絶望的と
テレビでも報道されていた。
・迎え火
この辺りの漁村では、遭難があると迎え火を焚く。
死者の魂を呼ぶのではなく生きる人間を励ます為だ。
いろいろと飛び交う噂や報道が無責任に
高村と爺やんをもてあそぶ中にあって、
夜の浜辺に、弘と純が焚き火を囲んで沖を見つめている。
「大丈夫ですよ、あの人はそんな柔な人じゃありません」
「気休めを言うなっ」
高村という結の義理の父親は
恋敵の弘と純には男の憧れのような姿に映るのだ。
だからこそ、弘は純に一杯ヤレとコップ酒を注ぐ。
注がれた純は期待と不安の表情を素直には浮かべない。
「あの晩は、全くぶったまげたぜ。
結のやつ、本当にぶっ放すかと思った。
・・・夜明けまでとことん話しをした。
もともと、俺の方から勝手に飛び出したんだ、、、」
弘の目は座っている。一杯煽る。
苦く狂おしく吠えたく情けなく自分を切り刻む酒。
「・・・でもなあ
止めよう、男らしくねえ」
純の方をゆっくりと向いた。
「あの女にゃ負けた・・・お前に譲る。幸せにしてやってくれ」
「すいません」
燃え盛る迎え火のはるか遠くを見ている弘。
その横顔を見てはいけないことと知っている純。
そのころ
番屋では凉子先生と五郎がお茶をのんでいた。
ニュースで遭難を知って、急遽駆けつけた凉子先生。
20年ぶりの再会に喜び、二人とも昔の想い出に花も咲き。。
もじもじと、結と純の仲を問いただす五郎に
凉子先生は結と純のなれそめを語った。
「人妻と聞いとりますが」
五郎の親心を明るく笑う凉子先生。
「好きあっているんだから、それでいいんじゃない。
それとも、バツイチはいけません?」
べそを掻きながら、
「とんでもない。実際、純もバツがいくつも」
ケラケラ笑う凉子先生、
「今まで散々苦労してきた娘だから、
純君とはきっとうまくいくと思うわ」
「先生。ありがとうございます」
・生還
オホーツク海の向こう、国後島から朝日が昇る。
びっしりと流氷は、静かな表情を湛えていた。
迎え火も眠いのか、炎の勢いが薄れている。
火の番をしていた純と弘も流石にうとうとと。
五郎がやってきて純に様子を聞いていると
結が朝餉を運んできた。
「どうぞ」
先ず五郎に。次に純。それから
毛布に包まって寝ている弘の方へ。
結が弘の肩を軽く叩いた。
眠そうに顔をもたげると、五郎と目が合った。
もと夫に、みそ汁の入った椀をお辞儀しながら突き出す五郎。
その場の空気を察し、同様に挨拶代わりの椀を軽く返す弘。
「おいしい?」 結が言う、
「ああ」 同時に純と弘の返事。
何とも言えない子供ら、ふたり。。
「おいしいです~~!!」
五郎が馬鹿正直に大声で言った。
頑強な救助船が流氷の中を進んでいく。
前に進み流氷を割り、流氷に乗り上げるとバックする。
水前寺清子の「365歩のマーチ」さながらに・・・
弘の手のひらからお椀がゆっくりと離れる。
こぼれ散るみそ汁からいい香りの湯気が立つ。
すっくと立ち上がって目を凝らす。
息を殺す。
はっ。
猛然と走り出す。
結。
純。
遅れて五郎。
一点を見つめて必死に走った。
「がおおおっ」
トドがモリとライフルを天に突き出していた。
「万歳!! 万歳!!」
大漁旗をなびかせながら入港してくる漁船と救助船。
「万歳!! 万歳!!」
堤防に詰めかけた人人人人・・・。
結が純が五郎が寅たちが、弘が出迎える。
下船するトド、そして爺やん。
天下の高村が群衆のなかに五郎をみた。
のろのろと五郎めがけて近づいた。
「やあ、よお来てくれた。 トド打ってきた。
今夜はトド鍋じゃ!!」
発止と高村は五郎を抱いた。
すまなさそうに頷く五郎だった。
力尽き
「あーー、しばれた~~」
高村は崩れ落ちた。
その光景を背に、ひとり肩を落とし
鼻歌を呟きながら去っていく弘がいた。
純はやりきれない思いで見送っているばかりだった。
大音響のうずにお祭り騒ぎがつづく。
ぐつぐつ煮たつトド鍋の中のトド肉。
肉めざして次から次へお箸の槍合戦。
酒を喰らい踊り歌い笑い叫び、狂う。
海に生きている男も女も今夜は無礼講だ。
「いやあっ。よく、みえた・・・よく、みえられた」
祭りのヒーロー、高村が五郎を抱きしめた。
舞い上がっている五郎も高村を抱きしめた。
片隅で、純も結も今夜の幸せに酔っている。
純の携帯が鳴った。
聞こえにくいので外へ出た。
「もしもし」
純の表情が変わっていく。
「・・・うん。わかった」
店内に五郎の姿を探す。
見つけて行き、耳打ち、
「中畑のおばさん、亡くなったって」
タクシーに飛び乗る、純と五郎。
傍で見守る結。
裸で飛び出してくる、高村らの酔っぱらい衆。
「なぜ逃げる!男なら付き合え!」
「嫁泥棒! この嫁泥棒!!ーーー」
混乱のなか、タクシーは出ていく。
凍(しばれ)る夜の街に白い排気ガスを残して。
・帰郷
富良野。
久しぶりの麓郷は全く変わっていない。
ただ、恩人がまた一人いなくなって本当に淋しかった。
みずえおばさんの死に顔は安らかな笑みを浮かべている。
「幼い頃、さんざんお世話になりました。
なんにもできなくてすいません」
「わざわざ帰って来てくれたんかい、すまんな」
みずえのご主人、中畑のおじさんの声は優しかった。
とんでもございません、と純は頭を振るしかなかった。
新婦のすみえと新郎の正彦から
みずえの居ない結婚式の写真を見せられた。
五郎はみずえが居るべき場所に指をそっとなぞった。
忙しく立ちまわるすみえにお悔やみを言い
雪子おばさんに、ご無沙汰の挨拶。そして、蛍に
今夜、泊めて欲しいと頼む純であった。
あの遺言の先生にばったり出くわした。
「あなたはいつまでも死とは無縁だと思い込んでいます。
しかし、あなたも必ず死にます。死んだあとのことを
思い描いてどうか遺言を書いてください」
五郎は、その言葉をいつになくじっくりと噛みしめていた。
ひと段落ついて、純は雪子おばさんの家にいた。
五郎が捨てられたものばかりで作ったリサイクルハウス。
そのうえ、電気も裏の川に水車を作り自家発電だ。
「すっげえな」
あらためて感心する純だった。
倒産劇で富良野を追われた息子の2年間。
五郎は雪子おばさんの家を建て、ついこの間
雪子の家のとなりに中畑の娘夫婦の新居まで建てたのだ。
それは、みずえのたっての願いであり夢でもあった。
そこへ五郎がやってきた。
「なかちゃん来てないかい?
みんなで飲んでたら、いつの間にかおらんようになってな」
ふと、窓からとなりの新居を見ると、小さく灯りがみえた。
ろうそくの炎が中畑の号泣に揺れていた。
「悪いな、せっかくこんないい家建ててもらったのにな
・・・見に来たんだ、あいつ すごく喜んでた、ありがとう」
みずえが亡くなる数日まえ、完成した新居に
家族が力を合わせて動けないみずえを運んだ。
「最高ね」
嬉しそうに笑うみずえが愛おしかった。
今宵、みずえに喝采ともいえる感謝の涙を流す中畑和夫。
潤んだ目で何度も何度もうなずいている五郎だった。
なんにも言えず、ただうつむいている純もそこにいた。
・兄妹
その晩、純は蛍のアパートに泊まった。
すやすや眠る快のほっぺはマシュマロそのもの。
純も蛍もあんなだったんだ、二人は微笑んだ。
正吉の話。
借金の話。
三沢のおじいちゃんが寝たきりになった話。
蛍の現実は、正吉は過去のものと諦めていた。
そこへ純の結との結婚話がでた。
「仕事も無いのに、結婚なんて出来るわけないっしょ!」
「結婚もしないのにお前、子どもつくったじゃないか!」
兄妹喧嘩とはそんなところである。
純が言った。
「今まで親父に反発ばかりしてきた。
でもな、今日雪子おばさんの家を見て思ったよ。
ガラクタばかりでも、あんな面白い家を建てる親父、
素敵かもって。
父さんの血が僕の中にも流れているって。
富良野で生きていけるんじゃないかって・・・
自信みたいなもの感じるんだ。うまく言えないけどな」
「・・・わかるよ。私もそんな気がするもの、近ごろ」
通じあうものがあるって、兄妹って、いいもんだ。
へ~くしょん! なぞしてはいなかった。
正座し、机に向かい、墨をふくんだ筆で
遺言を清書する五郎がいた。
『純 お前は結ちゃんと結ばれて勝手にやれ
蛍 お前も勝手にやれーーー
快 お前の成長する姿が見れないのは、・・・堪らない』
爺ぃ。
どこからともなく聞こえてくる快の声。
もういけません。
鼻水まじりの涙がぽたぽた遺言書を濡らし・・・
五郎、やけくそになって
半紙の遺言書にチ~ンと鼻をかむ、涙を拭く。
墨で顔は真っ黒に。。
「快っ」
遺言書を丸めて放った。
床にひっくり返り声を挙げて泣いた。
・決意
翌朝。
純はつぶしてしまった牧場を訪れた。
雪に埋もれた農機具はあの当時のままで、
牧舎は荒れ放題、蜘蛛の巣にはトンボが生きているかのよう・・・
草太の墓に煙草の線香をあげた。
「草太兄ちゃん、すいません、、、」
雪原の墓場はなにも語らず寒風がとおり過ぎていく。
三沢のおじいちゃんの家に着いた。
「ごめんください」
返事はなかった。が、気配がする。奥へ入ると、
じっと見つめる三沢のおじいちゃんが横たわっていた。
「ご無沙汰しています。黒板純です」
誰かのお?じっと純を見る・・・
「おじいちゃんのお陰で」
1500万円の借金返済を毎月3万円にしてくれた、その恩を
忘れたふりをして逃げていた純がこの僕です。
「純ちゃん」
こっちさ来い!精いっぱいの手招きは嬉しい懐かしいそのもの。
頭を床につき謝る純の反省の弁なんぞええんじゃ、水臭いぜ!
「わしゃあ、あんたが富良野に戻れんようになったんが、いつも
心に病んどった。よかった、、、五郎タンモウレシカロオ」
ただただ頭を下げる純だった。
身体も動かない。ろれつも回らない。
その三沢のおじいちゃんが、純に頼んだ。
「トンベン」
「?」
「トンベン、トンベンっ」
布団の上から股間を必死に指さす。
「あ、小便ですか?」
「ガマンデキン!!」
間一髪、し瓶に放尿できた。
「すまんのお」
ありがとうの気持ちが瞼を濡らすこの老人。
昔から畑仕事一本で生きてきた。
奥さんが亡くなってからも全く変わらなかった。
倒産して、1500万円の返済を迫る家族の意見を押し切り
毎月の返済を3万円にしてくれた三沢のおじいちゃん。
し瓶を洗いながら純はすがすがしい思いに駆られていった。
「おじいちゃん。こんなことで良かったら俺、毎日来ます」
雪の中を純の車がいく。
「たぶん、その時はっきりと
富良野に帰ろうという気が固まったと思う」
「それまで僕は、借金の返済を金のことだけで考えていた。
だけど金のことは勿論として、それ以前に
心の誠意という問題があったんだ」
ハッとして急ブレーキをかける純。
富良野の街に、結がいた。
ゆっくりとその後を車で追った。
街を見て回る結の足取りは、しっかりして無駄がなく
はっきりとした目的があるように思えた。
コンビニの店内の様子、金物屋での鍋釜の確認
スーパーでは食料品を手に取り、鮮度と値段のチェック。
市の総合病院に、それから市役所に入って行った。
結は確かめている。
この地で暮らすために。
結ちゃんが神社に入っていった時、純の思いは確信へと変った。
鈴を鳴らし、祈りを捧ぐ結。
ゆっくり振り返ると、純がいた。
斜めに降り注ぐ雪がふたりを祝福している。
結の舌先がチロ。
純の笑みがニヤ。
駆け寄り抱擁する恋人らは、見ていても羨ましいくらいだ。
参道を、結と純が寄り添って歩いていく。
・正吉
一通の便りは人の行き先を変える。
蛍にとって正吉は、夫であり快の父親でもある。
血の通っていない父子ではあるが正吉は男だった。
それは、蛍に惚れた証でありけじめでもあった。
純と共同経営していた牧場の倒産劇に
正吉も同じく1500万円の負債を抱えて富良野を出た。
正吉の偉いところは、毎月3万円を返済している点。
さぼっている純は独り者、しかしそれは理由にならない。
が、正吉は居所を誰にも教えなかった。妻の蛍にも。
他に女でもできたんだ。
でも、なんで毎月3万円を返しているの?
あれから2年。
蛍は諦めていた。
ある日、一通の便りが届いた。
差出人は、笠松正吉。
蛍は貪るように読んだ。
『・・・今まで居場所を教えなかったことを謝る。
・・・岐阜の山奥でダム工事をしていた。この2月で
工事が終わり次の現場に移ることになった。
・・・俺は弱い人間で、少しでも君らを思い起こすと
・・・2年間、一歩も工事現場から出なかった。夢には
よく見た。
快は大きくなっただろうな。君は怒っているだろうな。
・・・今年の盆休みに、もしかしたら』
逸る思いで快を抱いて、五郎の石の家へ向かう蛍。
石の家から結が出てきて鉢合わせの格好となった。
「蛍(?)さんですか?」
「結ちゃん?」
「はい」
快を抱いている蛍に会えて、結は嬉しかったに違いない。
蛍もそうであったろう。でも、そんなことより。
あの一通の便りが届いたのよ!!
風呂場で無邪気に遊んでいる五郎と純に叫びまくった。
「正ちゃんが居場所を書いてきた!!」
ポカンと蛍を見ている素っ裸の野郎らは間抜け面がよく似あった。
正吉の手紙と蛍と快。
純と結。
五郎。
形はどうでもいい。家族がひとつ屋根の下に蠢いていた。
「おにいちゃん」
寝ていた純の前に、蛍が立っていた。
「わたし、正ちゃんの所へいこうと思うの」
「・・・いいと思うよ、そうしなよ」
狸寝入りの五郎はひとり言みたいにつぶやいた。
「快は?」
目にいっぱい涙をためている蛍。
「もちろん一緒に連れていく」
翌朝一番、羅臼のトドから凄まじい量の海産物が届いた。
スケソウダラの箱の一番上に、結ちゃんの正式離婚証明が
ガムテープでべったり貼り付けられていた。
・もおいいかい
3月25日。
蛍と快は、正吉のもとへ旅立って行った。
純。結。それに、雪子おばさん。
それぞれに蛍の門出の挨拶をかわす。
五郎は、快を抱きながらとろとろ後をついていく。
汽笛。電車が近づいてくる。
見送りの輪から、快を抱いた五郎がそろそろ逃げる。
母の目は誤魔化せない。純も兄妹だ。難なく五郎を捕まえた。
「誘拐魔」
笑って、蛍。
反省、五郎。素直に快を蛍の両腕のなかに。
”富良野 富良野”
アナウンス。電車のドアが開く。
蛍と快。
みんなと五郎。
「おじいちゃんバイバイって」快に促す蛍。
わかんない、ママ。・・・顔を胸に埋める、、、快。
半泣き駄々っ子五郎に、やんちゃっこ快。
「もおいいかい」
「?・・・まあだだよ」
「もおいいかい もおいいかい もおいいかいっ」
やけくそ涙、くそガキっ。五郎がおらぶ。
「もお、いいよ~~!!」
目をくりっと、微笑んだ快。 爺い、バイバイ。
ドアが閉まる。動き出す電車。
手をふる蛍。
ケラケラ笑う快。
元気で。またね。うなずき。笑顔。
純。雪子。結。
「快っ」 行くな。
「快っ」 行くな。
「快っ」 遊ぼう。
雪のプラットホームを泣き叫びながらドタドタ追う五郎。
駅員の制止なんかくそっくらえ。
滑って転んで這いずり、それでも五郎は追っかける。
「快っ 快っ 快!!」
視界から電車は消えた。
その光景をじっと見つめている純がいた。
・遺言
雪を被った大木の切り株。
薄汚れた軍手が雪を掃う。
乱舞に似た大木の歴史の輪。
五郎の指先がそっとなぞっていく。
蛍と快が正吉のもとに行った後の生活は
結と純が五郎の石の家で一緒に暮らすものだった。
羊の世話や家事などは結が引き受け、
純は自分に課した三沢のおじいさんのお世話など。
夫婦かどうかなんてわからないが、それでいいさ。
五郎の冬は、いつの間にか炭焼きに費やされ
我儘な炎の放浪を、快と遊んでいるように愉しんでいる。
富良野に舞い戻って30年。
純も蛍もいろいろあったが、何とか大きくなった。
『父さんには、お前らに遺してやる金や品物はない。
しかし、残しておきたいものは伝えた筈だ。
・
・
・
父さんが死んだ後の富良野は、ちっとも変わらないだろうな。
・
・
・
あの、拾ってきた町。
雪子おばさんの隣にすみえさんの家があって
そのまた隣にお前たちの家が並んでいる。
快と君たちの子供たちが一緒になって遊んでいる。
そんな風景を見てみたいと願っている。
・
・
・
金なんか望むな、幸せだけを見ろ。
ここには何にもないが自然だけはある。
自然は、死なない程度に食わせてくれる。
ありがたく頂戴しろ。
そして、謙虚につつましく生きろ。
それが父さんの
お前らへの遺言だ。』
なぜか凛々しく、穏やかな表情を浮かべて
前を見つめる五郎は微笑んでいた。
◇主な登場人物◇
黒板五郎・・・・・・・田中邦衛
黒板 純・・・・・・・吉岡秀隆
黒板 蛍・・・・・・・中嶋朋子
中畑和夫・・・・・・・地井武男
中畑みずえ・・・・・・清水まゆみ
中畑すみえ・・・・・・中島ひろ子
北村草太・・・・・・・岩城滉一
笠松正吉・・・・・・・中沢佳仁
笠松 快・・・・・・・西村成忠
宮前雪子・・・・・・・竹下景子
井関大介・・・・・・・沢木 哲
小沼シュウ・・・・・・宮沢りえ
水谷涼子・・・・・・・原田美枝子
成田新吉・・・・・・・ガッツ石松
シンジュク・・・・・・布施 博
高村吾平・・・・・・・唐 十郎
高村 結・・・・・・・内田有紀
高村 弘・・・・・・・岸谷五朗
山下先生・・・・・・・杉浦直樹
清水正彦・・・・・・・柳葉敏郎
三沢のじいさん・・・・高橋昌也
佐久間拓郎・・・・・・平賀雅臣
熊倉寅次・・・・・・・春海四方