欲と借金の裏表 消えてしまったものは、あまりにも儚くて

2008年

ひとつ年上の女房気取り、冬美ともかれこれ20年来の付き合いです。

くっついたりはなれたりの関係にも、飽きが来ていた50歳半ばの私は、

数年前に難病に罹り、身体障害者手帳を持つ身になっていました。

これといった仕事もせず、それでも毎週通ってきてくれた冬美は、

小遣い程度の週二千円のカンパと、マクドナルドハンバ-ガ-の差し入れ。

世話好きなあなたの掌であぐらをかいていた、そして監視されてもいたかも。

両親と同居していた気楽さから、ずいぶんと勝手気ままな居候の私でしたね。

「お酒はダメですよ!」との、女医さんの言いつけは

親父の毎日の飲酒を間近に見ていると、見事に馬耳東風です。

蛙の子は蛙。大酒呑みになった私と親父の会話はほとんどなく

自堕落な息子に、80歳を越えた親父は見かねて言いました。

「のお。入院してくれんか」

おふくろに手をあげる、親父の恨み節の原因は痛いほど分かっている。

傍にいたおふくろは目を落としたままでした。

三か月間、アルコール依存症で精神医療センターに治療入院しました。

・銀行へ入社

一生治らない難病をいいことに、酒浸りのプ-太郎やっていた自分にとって

両親への心労は自責の念となって、入院することに躊躇いはありませんでした。

冬美も、両親とともに私を病院に送って、安心したことでしょう。

退院したその足でハロ-ワ-クへ出向き、就職相談に乗ってもらい

運よく、地元の銀行へ入社する事が出来ました。

準社員扱いの「労務員」。清掃がメインの、雑用係です。

フロアー、トイレ、階段、食堂の掃除から書類整理などなど。

朝7時から夕方4時まで勤務。週休二日制。ほか。

給与は職種と年齢を考慮した金額で並みですが、賞与があることは助かりました。

仕事にも慣れてきた頃、保険会社に入院保証金を請求しました。

あの当時で一日4000円。90日の入院ですから、36万円。大金です。

数日ののち無事、入金されたのです。ボ-ナスも支給されて二度ビックリ大感激!

さっそく、エアコンを両親の部屋に設置してあげました。親孝行としてでした。

保険金は、冬美には黙っていました。

通帳と印鑑は私が持っていましたが、キャッシュカードは冬美がにぎっています。

保険金のことがばれたら、彼女は当然のことをするでしょう。

お金の魔力は、私に銀行口座の移行を促し、キャッシュカードの価値をゼロにしました。

・浮気心

持ち慣れないお金が入ると、貯金する人と使ってしまう人の二種類あると思います。

もちろん後者が私です。そして、使い方をまちがえて失敗を犯すのです。

自分に甲斐性が無く、のんべんだらりなついたり離れたりの夫婦ごっこに飽きていた。

このままでは、冬美も私も共倒れ。冬美も還暦まぢか、色香も褪せた。

コンビニで何気なく手にとって見た、男性週刊誌が浮気心をくすぐりました。

家に帰って袋とじペ-ジを丁寧に開けて見た、露骨な女のヌ-ド写真。

アダルトビデオはよく見ていましたが、週刊誌は久しぶりです。

しかし、私の好奇心を煽ったのは「出会い系サイト・特集」でしたね。

二十歳前後から五十歳代までの、さまざまなジャンルの女性が誘っている。

人妻、学生、OL、先生、スチュワーデス、経営者、旅館の女将、医師・・・

真面目に結婚を考えている方はほとんど無く、不倫や恋の冒険希望者が圧倒的です。

善悪とか年齢差を超えた、エロスの世界に惹かれていく自分がいました。

・借金

携帯電話(ガラケ-)から気楽に登録して、無料体験メ-ルからスタ-トです。

そのメ-ルのやりとり次第で、出会いとなりエロスに発展していく夢を見る。

希望はふくらみ欲望は増す。しかし、無料体験メ-ルポイントはそこでおしまい。

中途半端に途切れた仲は、俄然、今まで話していた彼女を追いかけます。

追っかけするにはポイントを追加するしかありません。

1ポイント10円。最低購入ポイントは100ポイント。1000円必要です。

例えば、容姿端麗な女性社長。40歳独身。

「多忙な毎日のなかに少しでも癒される貴重な体験をさせて欲しい」

「男性のプライドを傷つけるかも知れませんが、お礼として一千万円差し上げます」

添付された写真は、ビジネスス-ツ姿の女性。あくまでも清楚で落ち着いた雰囲気。

好みのタイプ。お礼の一千万円。ぜひお会いしたい!

仕事中心に動く、その女性社長と確実な待ち合わせをするために費やす時間とお金。

ポイント購入するお金は益々膨らみ、メ-ルを打つ手はしびれてきます。

ふたりのすれ違いが誤解を生み、いつのまにか熱も冷めていくことも・・・

私の浮気性が祟り、同時に数人とお付き合いをしていた時もありました。

銀行勤めの男が、サラリーマン金融から借金をすることはいとも簡単です。

・止まらない妄想ギャンブル

出会い系サイトは、大きく分けて2種類あると思いました。

一つは、真面目に出会いを成立させるタイプ。

もう一つは、私がはまってしまった、お金と火遊びタイプ。

前者をメル友後援会とすれば、後者はカジノと言えるでしょうか。

はじめのうちは、ブラックジャックとかル-レットをゲ-ムとして遊ぶ。

ゲ-ムに慣れてくると、よりスリリングなポ-カ-、バカラに賭けていく。

勝った負けたは、時の運と言われているが、戦略に長けたプレイヤ-は強い。

天国と地獄のはざまで、ギャンブラーたちはカジノの魅力に札びらを切る。

ギャンブルには疎い私ですが、携帯電話の中で繰り広げられる

女性とお金にからむ妄想ギャンブルが、出会い系サイトではないでしょうか?

銀行での仕事は、11時から15時の間は比較的ヒマになります。

その時間帯で、女性とメ-ルのやりとりをします。

往復メ-ルポイント20Pとして、4回で80P。800円。

三人ともなれば、2400円。これが、昼の部。

帰宅後、食事もお風呂もそこそこに、またメ-ルやりとり再開です。

ひと晩で万単位のお金が飛んでいく時もありました。

すい臓がんに侵されて、余命三か月の女性社長との頃です。

「亡くなる前にもう一度、女の悦びを!遺産は全てお譲りさせてください」

お金が全てではなく、せめて彼女には安らかに旅立って欲しい。

人助けに駆られてのやりとりでしたが・・・

「・・・あっ」
「痛むんですか?」
「・・・」
「大丈夫ですか?」
「あ、、ありがとう」
「しっかりしてください」
「・・・こんな、わたしで、、すみません」
「うん、もう休んだほうがいい」
「怖いの、眠ればそのまま、、、目が覚めないような気がして」
「ごめん、、、なにか話でもしよう」

    ・
    ・
    ・
    ・
    ・

このような切ない会話が、夜中まで延々とつづくのでした。

食い入るように携帯電話に向かい、無言でポチポチやっている私を

親父とおふくろは言葉もなく、そっとしておくことしか出来なかった。

冬美から電話があっても、やりとりメ-ルを優先し、

適当にごまかしてほとんど相手にしない毎日でした。

いくつになろうと、我が子の心配をするのが親というものです。

そんな親心を何も知らずに呆けたように、妄想ギャンブルの虜になっていた。

切なく悲しく儚く、心労をかけてしまった両親は寝込んでしまいました。

この時、すでに

サラ金からの借金は200万円を超えていました。

・重なる災難

「さくら」という、メ-ルやりとりで稼ぐ女性もなかにはいたと思います。

しかしあの頃は、そのからくりさえ見えなくなって

お気に入りの女性の謝礼金目当てに、ポチポチやっているケ-スがほとんど。

この女性に会えさえすれば大金が入ると思うと、ファイトが湧くのでした。

給料日は、コンビニからサラ金4社へ振込み返済する嫌な日でした。

ボ-ナスも焼け石に水。借入金の限度額に少し余裕ができるだけ。

ガソリンスタンドで使用していたカ-ドにも手をつけてしまった。

あれほど飲んでいた酒は、出会い系サイトをやり始めてほとんど飲まなくなった。

飲む金がなかった。せめてもの救いだったと思います。笑えません。

借金地獄のなか、親父が倒れました。

酒の飲みすぎと、心労からくるストレスでした。

頭ははっきりしていましたが、老いは確実に進んでいると私にも分かりました。

おふくろの様子もおかしくなりました。

ボケの症状は以前から少しはありましたが、何か違うのです。

心臓に欠陥があり、咳込んでは疲れた疲れたとよく言っていました。

しかし、今回は違っていました。

遠くを見ているようでもなく、遠くへ意識を向けているようでもありません。

夢遊病に似た、幼い子供に帰ったような仕草は平和そのものです。

痴呆症と診断されたのでした。

親父は、入院生活。

おふくろは、介護老人ホームへ入所。

二人に掛かる現実のお金は、

会社役員にまで出世していた弟が出してくれたのです。

私にはどうすることもできませんでした。

・弁護士

弟に借金の肩代わりを頼もうとも思いました。

流石に、出会い系サイトでつくった借金とは言えず

株の投資でつくった借金ということで、頼んでみましたが

「自己破産しかないと思うよ」

ずばっと本音を言われましたが、ハッとしたのも事実です。

毎月の借金返済に追われてもなお、妄想ギャンブルで一発当てる気力も失せ

すべてのやりとりメ-ルをストップした。と言いたいところですが。。

実際は、骨抜きにされても本望と熱をあげていた女性三名を残して

他の人には申し訳ないとは思いましたが、さようならです。

禁煙を決めた愛煙家が、スパッと止められるわけがない。

弁護士の無料相談所といったところがあると、市役所の広報で知りました。

私は、恥も外聞もなく正直に借金地獄に至った顛末を話しました。

返済中のサラ金・クレジット会社名、借金額をまとめて提出し

いま現在の収入や自分名義の財産なども、洗いざらい申告しました。

弁護士は、

「自己破産申請をするのがいいかと思いますが、いいですか?」

よく考えもせず、

「よろしくお願いします」

とにかく、毎月の借金返済をしないでいい。

これだけの理由で弁護士にすべてをお任せしました。

翌月の給料日。返済しませんでした。

翌々月の給料日にも返済しませんでした。

弁護士にいうと、返済は無用とのこと。

肩の重荷からやっと開放されたのです。

浮いた返済金額は、

熱くなっていた3人の女性とのやりとりに注ぎました。

・遺産相続

性懲りもなく、妄想ギャンブルは続いていました。

弁護士には、止めたと嘘をついていましたが

自己破産へ向けた準備は着々と進んでいた、そんな頃・・・

親父が亡くなりました。

葬儀は、弟がすべてを取り仕切って

私は、弔文を述べたきりです。

おふくろは、遺影をじっと見つめていた。

築49年の実家と田畑を売り払って生まれた、遺産。

遺産相続は、四分六。弟が六。文句はなかった。

弁護士は慌てました。

借金返済が十分に可能になったことにです。

結果、自己破産には至らず

自己破産申請が受理された、その事実だけは残ったのでした。

・儚い夢

2012年 2月

実家を出て、愛猫と二人、アパ-ト暮らしになりました。

引っ越したその夜、冬美はやって来ました。

未練はまだありました。

疲れていたせいもあったが、抱けなかった。

何か、引っかかったまま彼女は帰って行った。

遺産が転がり込んできたら、ロクなことはありません。

妄想ギャンブルに拍車がかかる。

酒の量が増える。

車を買い替え、生活は派手になる。

ある晩、ひょっこり冬美が顔を出して

「車、替えたのね」

いやな感じがする。

「今まで、して挙げたぶん、少しでも考えて欲しいわ」

ごめんな。でも、それを言っちゃあおしまいだぜ。

8月

愛猫が亡くなった。

環境の変化によるストレスが大きかったと思う。

9月

続いて、おふくろも逝ってしまった。

親父と愛猫が、呼んだのかも知れない。

11月

銀行を定年退職。

行員さんたちが、花束を添えて送り出してくれた。

仏壇に、花を供えて手を合せた。

親父とおふくろの遺影。

その前には、愛猫のとぼけた写真。

チ~ン・・・

線香がゆらゆらのぼる。

なにもかも儚く消えてしまった

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