『北の国から ‘92巣立ち』純とタマ子、そして五郎の誠意は ”やるなら今しかねえ”

こんにちは、ふじみるです。

3年前、ひとつ年下の後輩が逝ってしまいました。

東京で社会人になって、はじめての会社の後輩でした。
彼とは、仕事中にサボってよく映画を観てばかりで、
仕事が終われば、居酒屋でその日観た映画を肴に酔っぱらって
帰る電車がなくなれば僕のアパ-トに泊まる、そんな仲でした。

30歳を過ぎて帰郷した僕のところへ
毎年、亡くなる年まで年賀状を届けてくれました。

彼も結婚して子供が生まれてからは、
年子の姉妹が成長するアルバム代わりに年賀状はなりました。

最後になった年賀状には、
20歳と19歳の晴れ着姿の娘さんがニッコリ、笑っていました。

「ふたりとも、幸せになるんだよ」

19、20歳の子供さんをお持ちのご両親
ならびに、お孫さんにあたるおじいさん、おばあさん。

『北の国から ‘92巣立ち』の中の、タマ子と純は
遠くにいる親たちに心配をかけないように、
どのような行動を取るのでしょうか?

ご自分の足跡を振り返りながら、ご覧になっていただければと思います。

目次

・トロい娘、タマ子

東京に出てから4年と7カ月。

いっとき、傷害事件を起こして帰郷した純でしたが
今は、アパ-トにひとり暮らしの20歳の成人男子です。

ガソリンスタンドでアルバイト店員として働き
代わり映えのしない毎日を送っていました。

楽しみといえば、初恋の相手のれいちゃんと遠距離交際を
時間を決めて、同じレンタルビデオの映画を観て、
電話で声だけのやるせないやりとりくらいなもの。

生身のれいちゃんはいないのです。

20歳の純は、意味なくだらだらと流れる日々が続いていました。

勤務するガソリンスタンド前に、ピザの配達バイクが停まっていて
ポリさんから駐停車の違反キップをよく切られてばかりいる、女の子を見かけていました。

ある日、雨の中に停めてあったピザの配達バイクをやってきたポリさんから
守ってやるように、純はスタンドの中に雨宿りさせてあげたのです。

配達から戻ってきたそのトロい女の子は、バイクが消えていてあせります。

あたりを見まわした女の子は、ガソリンスタンドの一角にあったバイクにホッとした時
何事もなかったような表情ぶった純をみつけます。

ぺこりと頭を下げて「ありがとう」と、
女の子は、みっともなさそうにしてバイクに乗って走り去って行きました。

その女の子とは、それくらいのなんでもないものでした。

いつものように、レンタルビデオ店で借りるビデオを探していたら
偶然にも、あのピザ屋のトロい女の子と出くわします。

純が手に取っていたのは、チャップリンの「ライムライト」。

「それ、すごくいい。きのう借りたの」。そう言って、女の子は走り去っていきました。

その夜、「ライムライト」を観ながら、涙を流している純がいました。

少しずつ、トロい女の子を気にするようになった純。

ピザ屋の前を、偵察がてら通りかかった純の目に入ったのは
店長に怒られている、あの女の子でした。

べそをかきながら出てきたら、純がいます。

「来てくれたんだ」嬉しそうな恥ずかしそうな女の子。
純は、「いや~あのう、仕事は何時に終わるんだ?」そっけない、お誘い。

その日が初デ-トでした。

歩きながら、映画の話に花が咲き
ラ-メン屋では、自己紹介。

鹿児島出身のタマ子。北海道の純。
お互いに、異性友達はいません。

純は、うそつきです。笑
れいちゃんのことを、うまくごまかします。

ラ-メン屋の中には、外人さんが食べながらお熱いム-ド。
目をそらすと、タマ子のスカ-トから覗く白いふくらはぎ。
目のやり場に困っている純をさらに悩ませる話題が、

「ビデオ鑑賞会」でした。

ひとりで観るより、ふたり。
でも、自分の部屋ではお互いに無理。
映画好きのふたりの解決策をタマ子が提案しました。

それが、「ラブホテルでビデオ鑑賞会」。

食べかけのラ-メンを吹き出した純も、本音は男でした。

帰りに、レンタルビデオのアダルト作品を初めてレンタル。
アパ-トの自室で、目をくぎ付けに勉強勉強。。。

・ビデオ鑑賞会

どこかで噂に聞いた、渋谷円山町のラブホテル街。

11時から17時のサ-ビスタイムのある所へ
タマ子に導かれるようにして、二人は入っていきます。

室内の空間は、大人のためのディズニーランド。

もちろん、ビデオは十分にそろっている。
タマコは、ビデオ鑑賞の方法をあれこれと調べ、
一方の純は純で、密室の楽しみ方を調べ、想像して。

女のタマ子はビデオ鑑賞に夢中になって。
男の純は、暇をもてあます。

ビデオ鑑賞会、3本目。
「南極物語」を涙を流しながらみているタマ子と、
映画の中の高倉健がどうしようもなく・・・大っ嫌い。

そんな想いを我慢して、となりにいるタマ子に慎重にキスして
スカ-トの中に手を入れる純。

ハッと我に帰った、映画に夢中になっていたタマ子は、
「嫌ッ!!」
純を跳ね飛ばしました。

気まずい時間が流れ、
タマ子は泣いて純はふてくされ、
映画の健さんは大声をあげて。

ふたりの沈黙にタマ子は弱音を吐きます。

「純君に、嫌われたくないの・・・」

言いながら、むしゃぶりついていったのはタマ子でした。

そのあとは、ご想像におまかせします。笑

・妊娠

好意は持っていても、惚れるまでじゃない。
純の気持ちは、その程度のもの。

タマ子の方も「ビデオ鑑賞会」と、SEXを楽しんだ
お互い、いい思いをするカップルにすぎません。

ずるずると、関係は続きました。
ところが、タマ子が妊娠したみたいです。

避妊の仕方はふたりとも心得ていたハズ。
どちらの責任かはわかりません。
しかし、妊娠測定器はウソをつきません。

できちゃった!

誰にも相談できずに悩む純。
純の顔色をうかがうタマ子。

「いっしょに産婦人科に行ってくれる?」

タマ子の言葉にどう返事をすればいいのか。
生むのか、中絶手術か。
どちらにしても、お金がかかるし
純にはその余裕はありません。

悪夢の毎日を送っていたとて何にもならない。

なるようにさせた、
産婦人科にいかなければならない悪夢の電話がきました。

恐る恐る、タマ子の病室に入ると
苦しんでいるタマ子がベットに横たわっている。
付き添いの夫婦らしき人がいる。

「黒板純です」

うつむいた顔で、上目使いに男をチラッと。

目が合うと、「表にでろ」
あごでものをいう。

男の後について病室をでた。
ドアが締まったとたんに純は男にぶん殴られた。二発。
有無を言わせないパンチ。

看護婦が飛んできて、その場は収まりますが・・・

病院の別室で、純は一方的にあれこれ聞かれます。

父親の名前。職業。電話番号。
電話はなかった。「嘘をつけ、いまどき電話がない?」

菅原文太が演じる、タマ子の叔父さんは容赦なかった。
叔父さんの女房もネチネチ純をいたぶっていた。

「住所を書け!」

上から見下す命令に、純は従うしかなかった。

親父の五郎だけには知られたくなかった。
成人の、男女の問題に五郎を巻き込みたくなかった。
責任は取りたかった。

今さら、後の祭り、か・・・。
産婦人科医院を後にしながら吐きそうだった。

大東京の中、孤独な数日が経ったとき
とうとう、五郎の姿を見つけてしまうのです。

・カボチャと誠意

菅原文太のおじさんから手紙をもらい、
すっとんで来た五郎だった。

ビシッとス-ツを着てネクタイを締めた
無精ひげの、あの親父だった。

すまない思いで会わす顔がなかった、純を
五郎は、叱りもせず人懐こい笑顔をむき出しにした。

「結婚する気はあるのか?」
「・・・」
「そっか、まだ若いもんなあ」

親子の会話に仲間の絆をみるようで、ほのぼのします。

「あやまろう。な、、、一緒に行くよな?」
「はい」

純と一緒にあやまりにいく。

男親とは、それがまた嬉しいのだ。

文太おじさんの家に向かって
歩いていく親子のシ-ンがあって、

『公害道路絶対反対』『再開発絶対反対』
の、看板が大きく画面に映ります。

その看板を掲げていたのが、
文太おじさんの家でした。

立ち退きを言い渡されていたのです。

当然のこと、立ち退き料は支払われる。
何度も何度も、役所から説得に来る。
お金とお願いの、下心がチラチラ・・・

この、短いショットを見逃さないでください。

家業は豆腐屋の文太おじさんの、例の家。

申し訳なさそうに、
五郎と純は家に入っていきます。

「このたびは、とんでもないことを・・・」

言いながら、カバンの中からカボチャを取り出して
一個一個、丁寧に作業台に置いて並べる、五郎。

こんな時は、何をさておいても、頭を下げて謝る。
得意の機先を制する、謝り作戦のはじまりです。笑

上段に構える、文太おじさんはそんなことは考えてもいなかった。
頭をクイっとふり、入れの合図。

正座で畳の上まで頭を下げる、五郎と純。

ふたりの芝居めいた謝り振りに、気を抜かれる文太おじさん。
決まり切った、うんちくを垂れてもしょうがない。

「あんたたちの、誠意はわかった。
しかし、あまり誠意とは思われない」

わかったようでわからない、文太おじさんのセリフ。

そもそも「誠意とは」なんなんでしょうか?

責任をとる。どうやってとる。
お金か。金がないときゃどうする。正解のない答えが堂々巡り。

金もないみすぼらしい五郎の演技は当たりました。

なんの結果も生み出さなかった、一幕ではありました。

その帰りに「一杯やってこか」、と五郎です。
純は、カボチャを下げていました。

「父さんは怒ってくれないのか?」思いながら。

一軒のめし屋でふたり、コップ酒。

富良野の話をする五郎はいつもの調子。
聞いているのかどうか、わからない純。

酒を飲んでいると可笑しなもので、耳が異常に冴える時があります。

♪やるなら今しかねえ♪

店で流れるこの歌詞が五郎を捉えました。

何をやるのですか?

・卒業

カボチャの頃から、時は経ち11月も終わるころ。

ひょっこり、タマ子が姿を現します。
純は、元気そうなタマ子をみてホッとするのでした。

タマ子も純に心配かけたことを謝ります。
純は、謝るのはこっちのほうだよ・・・。
散歩するふたりに、わだかまりは消えていました。

「これ」
「なに・・・」
「返す」
「何?」

渡された封筒には、100万円入っていました。

五郎から、文太おじさんに送られてきたもので、
タマ子に返すように言われたのでした。

文太おじさんは、
「気持ちは、わかったから
このことはもう忘れましょう、って」

タマ子にとっても、忘れるために
五郎に純から100万円を返して欲しかった。

『公害道路絶対反対』『再開発絶対反対』
の看板を掲げていた、あの文太おじさんの家。

誠意とは、と大上段から言ったあの人から
このことはもう忘れよう、のひと言。

100万円ぽっちじゃ話にもならん。
の裏返しにもとれますが、、、

タマ子は、故郷の鹿児島に帰ると純に告げます。

「東京は、もういい。卒業するの」
タマ子と純のことも、いい思い出として。

「さようなら」

ガラスに映るタマ子は
ゆっくりはっきりと、声を消して言って、笑って
去っていくのでした。

冷たい風の舞うその夜、
アパ-トに独りきりの純は思っていました。

「父さん、どうやって、お金を作ったのですか?」

Ⅰ万円札を一枚、一枚並べながら。

・100万円の意味

文太おじさんからの帰りに、一軒のめし屋から流れた

「やるなら今しかねえ」の歌詞に

五郎はある決心をします。ひらめきです。                       運よく、煙に巻いた「誠意」に対するあやまり芝居は
五郎には、何かしら心に引っかかっていた。
やっぱり、お金しかないだろうとピンときた。

自分の納得できる家を建てるために、
皮むきまでした木材を仕入れ値で売っパラったのです。

総額300万円を手にした五郎は、
200万円を借金返済に。
残りの100万円を、文太おじさんへ送ったのでした。

木材など使わなくても、家は建てられる!
その辺にゴロゴロしている、石を使えば金はかからない。

「やるなら今しかねえ」
あの、歌詞が教えてくれたのです。

すべてを石で家を建てるのは、言うのは簡単です。

やるのは五郎ひとり。
大変なことは分かっている。

しかし、「やるなら今しかねえ」
五郎の、他人には理解できない意地が、
100万円の意味でした。

その100万円をいらない。
気持ちは良くわかった。と、返した文太おじさん。

意地と意地がぶつかって、「誠意」の花が咲く。
浪花節だよ人生は。ってなもんですかね。笑

その100万円を純は五郎に返します。
しかし、五郎は受取りません。

「一度くれてやった金だ。やった以上、見栄ってものがある。
早く仕舞え仕舞え!俺がぶん捕る気になる前に」
「すみません」

純は、懐に100万円を仕舞いました。

・亡き友へ

娘さんふたりの晴れ着姿、送ってくれてありがとう。
これからという時、旅立っていってしまい無念だろうな。

「北の国から・巣立ち」は、君も、若いころ一度は観たと思います。

20歳のころは、生意気盛りで
一人で大きくなったように思っているのが、多くの若い連中です。

親の苦労も知らないで、な。

大人になった娘さんたちは、これからも生きていく。
いろいろと苦労も多いと思います。

お金のことで困ることもあるでしょう。
俺なんか、いまだにピ-ピ-いってるよ。

五郎が、言っていたセリフがジ-ンと響く時がある。

「金がなかったら、知恵だけが頼りだ。・・・それと、テメイの出せるパワ-と」

自分を信じて、娘さん二人、やるしかない。
そお思います。
出しゃばったこと言ってすまない。

娘さんたちを、温かく
どうぞ、見守ってやっててください。

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