『北の国から’98 時代』草太が描いた夢と現実 奔流に散った粋な奴 【後編】

こんにちは、ふじみるです。

お恥ずかしい話しですが、

9月から、また生活保護のお世話になっている次第です。

今回で2回目となりますが、65歳を過ぎた独り者の私には

事情がどうあれ、なるべくしてなったと自覚しています。

しかし、生きていくことに諦めという言葉の持ち合わせはありません。

のろのろと、ここまで、『北の国から』を

自分なりに紹介してきたことを誇りに思っています。

これからもよろしくお願いいたします。

          

・噂

蛍と正吉の結婚式が来年の1月に決まっていた。

今は、秋の気配をより感じる9月。

蛍は、五郎の「石の家」に引っ越して来ていた。

久方ぶりの親子3人と正吉、そして雪子おばさん。

幼いころの思い出を、一家団欒の温かい懐かしさを

ふたたび味わえる貴重な期間となっている。

そんな折り

あらぬ噂が風にのってちらほら舞っていた。

「蛍の本当の父親は・・・」

真相を知っているのは

蛍と正吉と草太の3人だけであった。

草太の後輩、新宿が顔色を変えて飛び込んできた。

意気揚々と仕事をしていた草太にかみついた。

「中畑のおやじから聞かされたよ」

「ああ、あれな。で、お前なんで知ってんだ?」

ここだけの話として、草太が

うっかり耳打ちした中畑のおじさんからだった。

それが新宿からその話を聞かされる。

草太は反省してなんかいなかった。

「俺が、ひとりで真剣に考えて作ったシナリオだ。
蛍が幸せになるには、正吉とくっつけるしかなかったんだ!
うん。これで、すべて丸くおさまる。うん」

信じるものこそ救われる。

単純な草太ではある。

あきれ顔の新宿は、しょうがないように立ち去った。

こういった噂はすぐにひろがる。

雪子おばさんも、それとなく純に匂わせる。

純は正吉を考えるが、なにも言えない。

中畑は五郎に誤解を招くが、あいまいにすぐ打ち消した。

・母子手帳

噂の真ん中に自分の娘がいる。

中畑は話をそらしたが、そらしたあの目が語っている。

そういえば、蛍と駆け落ちした妻子持ちの医者。

純と一緒に訪ねた吹雪のなかの診療所。

矢も楯もたまらず、二階にゆっくりと上がっていった。

蛍のバックを見つけた。中身を探ると

「母子手帳」があった。

慎重に開く。

あの診療所のある、根室市の発行。

妊婦は蛍。

父親は空白のままだった。

下で物音がした。

「蛍かい?」

あわてて、母子手帳を元に戻し

1階に降りていくと

すきま風がドアを通りすぎている。

五郎は、ホットしてバタンと閉めた。

・シュウに会いに行く五郎

あれほど仲が良かった純とシュウちゃん。

家の事情で、離れ離れになっているふたり。

五郎は二人の仲を心配していた。

一緒に山奥の温泉に浸かったこともあったシュウちゃん。

急にシュウちゃんに会いたくなったのだ、五郎は。

車で1時間半ほどのところにシュウの実家はあった。

その町のコンビニでシュウは働いていた。

お店にシュウがいる。

たまたま五郎に気づいた彼女。

「おとうさん」

婆さんひとりでやっている、趣のある居酒屋に

親子と見間違えるような二人がそこにいる。

純がシュウの実家に挨拶に行ったときの話に、

しどろもどろになっていた純を、腹を抱えて笑う五郎。

どうしても富良野にまた帰るために、

意地でも今のコンビニで頑張っているの

と、五郎に安心してくださいと告げるシュウ。

純とシュウちゃんは大丈夫だろうと、五郎は思った。

「蛍と正吉が結婚することになったんだ」

ボソッともらした五郎のひと言は、

シュウに会う本当の目的だった。

心から喜ぶシュウの笑顔は純粋そのものであった。

照れ笑いしている五郎の目的は果たしたが

大きく引っかかっている悩みは、腹にしまった。

・離農する仲間

3年ほど前から、五郎も有機栽培を手伝っていた一軒の農家が

離農せざるを得なくなっていた。

この前の疫病発生や、浮気な天候による収穫ゼロの失敗が重なった。

農協から借金した返済の見込みはなく、農家仲間による「連帯保証」にも

見放された。

「家と土地をおいて、丸裸でこの土地から出ていくんだな」

草太は平然として農事組合の場から一番に立ち去って行った。

つられるようにして皆も一人また一人と重い腰を上げた。

離農することは、残された農家が借金を背負い込むことだった。

純と同級生の兄夫婦が、離農する当事者一家であった。

間一髪のところで、兄の農薬服毒自殺は止められた。

・クリスマスプレゼント

翌日の仕事終わりに、シュウは純を待っていた。

歩きながらの会話に恋の灯りが浮かんでいる。

焼き肉店でも、食べながら和みながら。

蛍と正吉の結婚式の話に、

シュウが嬉しそうに相槌をうつと、純は一瞬ためらって

「なんで知ってるんだ?」

「おとうさんから聞いた。この前、密会したの」

満室のモ-テルで順番待ちしているふたり。

五郎が腹にしまった、蛍の赤ちゃんの話を

純がシュウに打ち明けた。

「正吉くんなら、ありそう。男らしいとこあるから。

でも、蛍ちゃん、よくOKしたね」

過去のシュウを理解したように

正吉と蛍のことも、純はわかったような気がするのだった。

久しぶりに愛したシュウの躰は

小鳥のようにさえずりふるえた。

シュウからのクリスマスプレゼントは

グリ-ン皮のノ-トだった。

いっぱい詰まったシュウの文字に絵に

純は深い感動を覚えるのだった。

・草太の死

裸同然で出ていった離農一家が手放した土地や建物を

二足三文で手に入れた草太は人が変わってしまったのか?

純も正吉も答えはYESだった。

借金をしてでも、事業を広げてト-タル決算では黒字にする。

今では、草太の牧場も次第に注目されるところまでになった。

もっともっと儲けたい!今が、勝負を賭ける時と決断していた。

とにかく人手が足りなかった。それが一番の悩みだった。

とくに、純と正吉には熱心に声をかけていた。

しかし、ふたりとも返事はNO。

純の同級生の兄夫婦が新婚家庭を営んでいた、家。

草太はタダ同然で買い取り、その家を蛍と正吉の新居として

安く貸してもいいと言う。正吉のNOは当たり前のこと。

あの離農一家がこの村を去ってから、三日しか経っていない。

市の臨時職員として働いている純にも

正吉がカチンときた理由に似たわだかまりが募っていた。

五郎にそんなことを話した。

「悪口は言わないほうがいい。草太は、奴なりに一生懸命なんだ」

炭を焼きながら朗らかに五郎節を放つ。

「俺は、時代遅れの男だ。大きくやることは苦手だ

ちっちゃくやる。人が喜んでくれる顔が見える範囲でな」

その夜、純は草太と飲んでいた。

耳にタコができていたいつもの話に、純は草太が嫌になっていた。

輪をかけてムカついたのは、例の家を処分する手伝いを頼まれたこと。

「嫌だ!絶対嫌だ!!」

純の吐いた叫びに草太は無表情で純を見つめた。

そのとき、横やりが入った。

「家を処分するトラクターをタダ同然で買いたたいたってな!」

そばで聞いていた中年男性がいきなり草太を殴った。

「そうカッカすんなよ、おっさん」

止めに入る純の肩越しに、草太は

「文句なら農協に言え。国の仕組みに文句言え。
こうまでしないと、俺たち喰っていけないんだ!」

ひとりで店を出た草太は、

路上に凍った雪にぺっと血反吐を散らした。

「草太にいちゃん!」

見送っていた純が最後にみた、にいちゃんだった。

一人でトラクターを運ぼうとして

トラックが横転し押しつぶされて

草太はあっけなく死んだ。

・葬式

草太兄ちゃんの手伝いを断った。

その頼みをきいていれば死ななくてすんだ。

ひとりでトラクターを運んでいたら

トラックが横倒しになって

押しつぶされて草太兄ちゃんが亡くなった。

その映像が全身にまとわりつく。

単調なお経は純には聞こえなかった。

だら~とうなだれている純の様子を蛍も五郎も見ている。

式場を五郎は抜け出てシュウに電話した。

「悪いけど、純の傍にいてくれないか」

通夜の終わりころ、シュウが駆けつけた。

焼香のあと、シュウに草太の死に顔を純はそっと見せた。

穏やかに眠る草太に合掌した。

「大丈夫?」

シュウが純に身を寄せて言った。

「わざわざ来てくれてありがとう」

「おとうさんから連絡もらって・・・」

「そっか」

シュウの父親は、外で車の中で待っていた。

純と遠慮がちに挨拶を交わし、シュウを連れて帰っていった。

深々と頭をさげて純は見送った。

深夜3時。

深々と雪が降っている。

草太の死に顔を見つめる純がいる。

安らかに眠っている草太。

そっと雪子が声をかけてきた。

「昨日の夜、草太さんがお店に来たの」

蛍の赤ちゃんのことには何も答えなかった。

蛍は正吉がいるから安心だ。

純が心配だ。

自分がどう思われようが純が心配だ。

あいつは弟だ。

雪子のひとことひとことが

純には切なく重く、涙が止まらない。

むせび泣き忍び泣き、純の男が泣きに泣いていた。

灰となり煙と消えた草太の告別式も終った。

・残された2つのシナリオ

正月に入って、草太の牧場で寄り合いが開かれたその日

草太のボクシングコ-チだった成田と後輩の新宿から

純と正吉に突然、ある相談を持ちかけられた。

草太の牧場の話だった。

しつこいくらいに草太が、純と正吉に

牧場を手伝って欲しいと言っていた、あの話である。

経営状態は悪くはないが、手を広げ過ぎている。

借金の額も驚くほどの数字だった。

とりあえず、今いる仕事のわかった連中で仕事は回るが

草太の願いは、純と正吉に牧場の全体を見てほしいこと。

成田と新宿は、突然の相談話を持ち掛けてすまないが

草太の遺志を汲んでやってみるきはないか?

お前ら、考えておいてくれないか?

草太らしい勝手なシナリオに

純と正吉はうつむいて返事はしなかった。

もう一つ、純にシナリオが舞い込んできた。

「蛍と正吉の結婚式に、俺は命を賭けている」

翌日の晩、居酒屋で世話役と純の同級生から聞かされた。

打ち上げ花火20発。

ばんえい競馬3頭。

蛍と五郎の乗るパレ-ド用のそり。

その後ろに最新型トラクター2台。

その後ろには、仲人の乗るキャデラックのリムジン。

草太のイメ-ジは素晴らしい!!

純も蛍も正吉も大反対した。

路上で世話役に土下座する五郎も必死に止めた。

白無垢の花嫁衣裳一式が届けられた。

貸衣装屋への支払いは草太が済ませていた。

蛍。正吉。純。

暖炉の前に五郎はぼ~として座っていた。

「にいさん」

正吉が言った。

「その言い方、まだやめてくれ」

純が不愛想に返した。

正吉は草太の気持ちを、恥を忍んで受け入れると言った。

純は五郎と同じように、そんな正吉に心から感謝していた。

・五郎と蛍の夜

「今夜から下で寝る」

結婚式を3日後に控えている蛍。

花嫁衣裳は、2階に飾ってある。

幼いころの風景があった。

蛍が牧でお風呂を焚く。

五郎が湯船に浸かっている。

「お腹の子は順調かい?」

「うん。最近、蹴りだした」

返事代わり鼻歌がつづく。

「ひとつ聞いていい?
父さんと母さんが結婚した夜、どんな話しした?」

「馬っ鹿やろう、忘れた~。そんな昔のこと」

「聞かせてよ、どんな話ししたか」

五郎の寝顔がくずれる。

「ほんというとな、父さん、母さん怒らしちまったんだ」

「どうして」

「わからない。急に怒りだしたんだ」

「・・・」

「結婚してくれてありがとうございます、って土下座して言ったら母さん・・・」

「そりゃあ怒るよ」

「・・・いまだにわからない」

「そっち行ってもいい?」

「こい」

五郎の布団の中に入ってくる蛍の目が濡れている。

やさしく迎い入れて、

「父さんいいかげんだし、目は垂れてるし、、、」

「母さん言いたかったのよ、父さんの方が素敵なのに
どうして礼なんか言うのって」

「馬鹿言え」

蛍は五郎に甘えるように照れるように告白する。

「父さんは素敵です」

「おちょくりやがって」

「蹴った、・・・父さん触ってみて」

うじうじしている五郎の手をお腹に誘う。

「動いた」

身を起こす五郎の掌は蛍の腹の上にじっとしている。

はっと気がつき、触った掌をゆっくりと揉みながら見つめていた。

「お前、落石の先生のこと、もう完全に忘れることできたかい?」

「・・・できた。・・・忘れた」

「そっか。それならいい」

父としてできるのは、うんうんとうなずいてやることくらいしかない。

蛍は五郎にもたれかかり目を瞑って言った。

「父さんのこの臭い、絶対忘れない」

・ああ、結婚式

あなた

そんなに駄々をこねてはいけません

せっかく草太さんが用意してくれた

キャデラックに乗らないなんて

子どもみたいなことを

昔とちっとも変わっていない

あなた

おねがい

ふふ

やっと気持ちも落ちついたみたいね

そお

あたしも連れてってくださるの

蛍の花嫁姿

見せてくださるの

ありがとうございます

令子そっと見守っているわね

おじさん

でしゃばった真似してごめんな

いろいろ迷惑かけたけど

俺の心からの感謝の気持ちなんだ

まったく

酒ばかり飲んでるべさ

蛍のやつ

泣いてやがる

正吉のやつ

格好つけやがって

お前も早く嫁さんもらえ

嫁さんもらえ

にいちゃん

楽しみにしている

愛子のやつ

よく見つけたな

恥ずかしいけど

俺の声を聞かせてやってくれ

テ-プの最後の

酒くれ~っは

カットして欲しかった

あなた

素敵よ

もっとお飲みなさい

あたしも一緒に飲みたい

正吉くん

いい人でよかった

蛍は

きっと幸せになれるわ

純は

どうなるのかな

「父さん、完全にきれて酔っ払ってる」

シュウに電話をかけている純がいた。

「これから送っていく。石の家に一緒に泊まってやるんだ」

布団を敷き、五郎を介抱する純が

五郎の懐に気がついた。

純くん

今日はありがとう

母さん

本当にうれしかった

おやすみなさい

  

            

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする