こんにちは、ふじみるです。
今回、紹介させていただく
『北の国から ‘95 秘密』は、
誰にも知られたくない「秘密」が
テ-マとなっています。
馬鹿っ正直に
開けっぴろげに
告白する人間はいない。
いるとすれば
秘密を商売道具に使うとか、
身にふりかかった危険な嘘を
晴らすために秘密を告白する。
普通、そういうもんだと思います。
でも、偶然に知られてしまう秘密は
悲しい波紋が広がることが多いものですが・・・
ヒロインの「シュウ(宮沢りえ)」と、モテ男「純」の
ポキっと折れそうな危うい恋に、蛍の不倫に
目次
・れいと純
富良野に帰ってきて1年が過ぎた純の仕事は、
市役所の臨時アルバイトのゴミ収集作業員です。
仕事が仕事だけに、臭いに少し神経質になっていた純。
デ-トの時には、コロンをたっぷりと。。
初恋相手の、れいとは何となくまだ続いていますが
会うたびに大人の女を感じ、いまの純には
置いてきぼりを喰らわされたような
劣等感を抱いていました。
「プロポーズされたの、私」
れいのポツンともらした告白に
「いいんじゃない」
自分を笑うようなそっけない返事。
ほかの男に先を越された悔しさなど
悟られてたまるか。
ポ-カ-フェイスの似合わない純の
せめてもの贈る言葉でした。
が、
言葉は言葉。
れいをものにしたい男の本音は隠せない。
プロポーズを許した純の下心は正直だ。
中学生の頃に歩いた思い出深い草原に
無理やり押し倒してしまう純。
れいの抵抗に純はそれ以上進めない。
中途半端な欲求不満が残るばかりです。
失敗におわったデ-トの帰り際に
「コロンつけるのやめなさい」
れいは、純の臭いへのコンプレックスを諭すのでした。
初恋の相手、れいちゃんにはかなわない純。
二人の間に、男と女の仲は似合いっこないだろうな。笑
・柱時計
ゴミ焼却場の前に、
寂しそうにウンチ座りしている娘がいます。
その娘とは、純に引っ越し用の段ボール箱を手渡した
朝のゴミ出し風景のひとコマに過ぎませんでした。
愛想のいい「ありがとう」に
純はぶっきらぼうに「ああ」と返す。
なんでもなさそうなふれあい。
「また、あの娘がきているぜ」
ゴミ焼却係の同僚が純に耳打ちします。
あの娘の大切にしていた柱時計を、
うっかりしてゴミと一緒に出してしまった。
その柱時計を純が引き取って、
親父の五郎にプレゼントしたのである。
あのゴミの日に
ぶっきらぼうに「ああ」と言った
純の口もとが、にんまりゆるんでいた。
善は急げ。
純は、五郎に事情を話して
早々に柱時計を引き上げていった。
「これ、君んだろ?」
どこで調べたのか知りませんが、
あの娘が勤め先を出てきた時に
純は声をかけました。
「焼かれる前に、僕が持って帰ったんだ。返すよ」
「ありがとう。おじいちゃんの形見なの」
いっぺんに、晴れ晴れした表情のその娘に
純はばつが悪そうに柱時計を渡しました。
「おれ、黒板純」
「あたし~、小沼シュウ」
シュウのアパ-トまで送った純は
電話番号の交換だけは済ませて帰ろうとすると、
「お茶でも飲んでいかない?」
「知りあったばっかでそんなこと出来るかよ」
「まじめなんだ」
安心半分、からかい半分のシュウは笑っている。
「そのうち連絡するよ」
気取って、その場から去っていく純だった。
純のアパ-トに着いて、ふっとドアの前で止まった。
正吉が女を連れ込んでいる。
目印の”黄色いハンカチ”が揺れていた。
現在、兄弟みたいな親友の「正吉」と
一緒に気ままな青春を送っていた。
正吉のやつ。
純はニタっと笑ってそこから去った。
正吉に刺激されたか。
純は、さっき別れたばっかりのシュウを呼び出していた。
「よお。久しぶり」
「何年ぶり。元気だった」
正吉と黄色いハンカチのことを話す純。
けらけらシュウは笑う。
とりとめのない話が続いた。
東京に、それも近くに住んでいた話になった。
「おれ、ガソリンスタンドでアルバイト」
「あたし~、ケ-キ屋さん」
シュウが純に
「東京、楽しかった?」
楽しかったら、そんなこと訊かない。
純は純で苦い経験があった。
シュウはシュウの東京だった。
「おれ。東京、卒業したんだ」
「いい。それ。あたしも卒業した」
しんみりして、気持ちが通った初デ-トだった。
喫茶店から流れる
尾崎豊の「I love you」に
れいの面影が純の頭をよぎった。
シュウとれい。
純にはどちらも手放したくない
モテ男の勝手な想像であった。
・三人家族
ゴミの収集日にゴミを持ってかえって肥料にする。
捨てられたニンジンも食料にする。
法に触れることはしていない。
いま、住んでいる石作りの家もお金はかけていない。
俺のどこが悪い!
そんなユニ-クな五郎に
純はシュウを紹介したのが運の尽き?
ではありませんでした。
あの柱時計をエサにシュウを釣った純も
同じ真っ赤な五郎の血が流れている。
金がないなら知恵を出せ、のDNAが。
シュウは笑い転げていた。
8年前の富良野の生活に戻ったような、吉日だった。
シュウの自宅アパ-トに入った純は
家具から電化製品までタダで調達する方法を話した。
「もう最高!!」
自然とふたりは結ばれていた。
ヘ~クショイ!
五郎はその時、
シュウに蛍を重ねている自分が嬉しかった。
・蛍の不倫
純にとっても正吉にしても
あの蛍が信じられなかった。
素直で純朴な蛍は、とっくに大人だったのです。
看護学生時代には医師の卵と真剣な初恋をし、
正看護師になってからは、妻子ある医師と駆け落ち。
いつの間にか身につけてしまった女の知恵は、
父の五郎と、亡き母の令子からいただきました。
惚れるとは、修羅に飛び込むこと。
世間を捨て、自分に正直に生きること。
親兄弟の縁を断ち切ること、、、
純のアパ-トにお金を借りにきた蛍に
正吉はチラっと目を合わせてその場をはずした。
駆け落ちしたその医師の家族が心配している。
住所だけでも教えるんだ、と純が迫ります。
蛍は純にだけ教えた。
落ち着いたら、父さんにも知らせるから
医師の家族には黙っていて!
切迫つまった蛍の決意が純に伝わってお金を渡した。
外にいた正吉も協力したのは言うまでもない。
見送る純の目に映る
蛍の背中は真っ直ぐに伸びていた。
・噂
古本屋に行かなくてもエロ週刊誌は手に入ります。
純の悪友「ヒロスケ」は、
純の仕事のおかげでエロ週刊誌に
いつもお世話になっていました。笑
純の彼女のシュウには一度会っていました。
ヒロスケがシュウを紹介してくれと
純に頼みましたが
「いやだ」
あっさり断る純でした。
ヒロスケは口が軽いやつでした。
正吉とも仲間付き合いをしているヒロスケが
ある日、
「いいもの見つけたから」
と、正吉にエロ週刊誌を見せました。
「な。純の彼女だろ?」
名前は芸名ですが、彼女に間違いない。
ヒロスケは調子に乗って、
アダルトビデオを借りてきて
正吉と二人で鑑賞しました。
そんなことは全然知らない純は
毎日のように五郎の家にシュウと遊びにいっていた。
五郎は、シュウがとても気に入っていて
自分の娘のように接していた。
蛍のことは、純はなにも話さなかった。
何気ないちょっとしたひとことが
引っかかることがある。
気になって訊いてもうまく逃げられて
だんだんと村八分にされている。
正吉はとぼけ通したが、
やはり、ヒロスケは、である。
エロ週刊誌のなかの、シュウを見せたヒロスケは
正吉とビデオまで観たと白状した。
ショックで頭の中が真っ白になった純。
帰りにレンタルビデオ屋でシュウのAVを借りた。
ボリュームを抑えてシュウのAVを夢中になって
ヘドを吐きそうにして観ていたら、
正吉が電源を切った。
男らしく正吉はあやまり、純に殴られるままだった。
ヒロスケのチクリと知ると、正吉は飛び出して行った。
おにいちゃんと慕っている
「草太(岩城滉一)」も噂は知っていた。
ヒロスケは、みんなから白い目でみられ
過去の秘密をどうのこうの言いふらすな
と、非難の的になっていた。
草太も口の軽い男だと見られていた。
「過去の秘密は誰にでもある。
そっと黙っていてやるのが優しさだ」
説得力には弱いが、純は理解してはいた。
しかし、しこりは残った。
長い夜だった。
れいから電話があった。
「お嫁にいくことに決めたの」
「おめでとう」
「ほんとうに?」
「良かったと思うよ」
窓外に舞う雪はよりまぶしく・・・
・消しゴムと鮭
シュウとのデ-トは、続いていたが
あの日以来、純のこだわりは深くなっていった。
いつかの晩
腹いせに抱いたシュウの目が吠えていた。
「わたしが何をしたっていうの」
「もう、終わりかな」
夜道を歩く純のそばを大型トラックが過ぎ去っていく。
深い雪道をひとりの女性がやってきた。
シュウのことも、蛍のことも
まったく知らない五郎のもとへ。
その女性(大竹しのぶ)は、
蛍の看護学校時代の看護婦長であった。
蛍の不倫相手が彼女の亭主と告げられ
五郎は、信じられない表情へと凍る。
どちらが悪いとか問題ではなく
とにかく蛍の居場所を教えてください。
今年の年賀状を彼女に見せると
すばやく書き写した。
だされたお茶にも触れず
帰っていった。
バス停まで送ってきた五郎に彼女は
蛍へ電話してくださいと頼む。
ダイヤルを回してしばらくして
公衆電話から蛍の声が聞こえたとたんに
彼女は受話器を下ろしてしまった。
「馬鹿ねえ、私ったら」
目がまわるほどのあっという間の展開に
五郎は唖然と立ちすくんでいた。
その夜。
五郎のもとへ、シュウがやってくる。
シュウの車が立ち往生したので泊まることに。
五郎は、蛍の不倫のことをシュウに話した。
シュウは五郎に寄り添いながらうなずいていた。
蛍とシュウが重なり合って、目に涙をためている五郎。
暖炉の前で、娘を寝かしつけるように
五郎の膝枕にこうべを預けるシュウ。
深夜。
寝言みたいなものをシュウがつぶやいた。
「過去を消せる消しゴムがあったらいい」
うんうんと
やさしくうなずいている五郎であった。
翌朝。
五郎は、蛍のことで純のアパ-トにやってきた。
なんでもっと早く知らせてくれないんだ。
昨日、蛍と駆け落ちした医者の奥さんがきた。
父さん、これから蛍の所へ行ってくる。
純、父さんに付き合ってくれるかい?
医者のことよりも、蛍のことがいちばんよ。
純は、当然とばかり蛍の所まで車を飛ばした。
8時間かけて蛍の所まで到着したのはいいが、
五郎には蛍に会いに行くのが怖かった。
いざとなったら、ヘタリ。
蛙の親は蛙です。
一軒の飲み屋で一人でちびちびやっている五郎。
純が蛍とふたりでやってきた。
馬鹿野郎!なんて、口が裂けても言わない。
「蛍、元気そうじゃないかい」
五郎は、これ以上はない垂れ目で喜びをあらわすのだった。
お酒もかなり回っている。
「ホタ。人がなにゆうても関係ねえ。
自分が幸せならいい。ヘッ。気にするこたあないさ。
安心しろ。父さん、ホタの味方だ」
五郎、自分がなに言っているのかわからなかった。
相手の医者に会うのが、
どう言って挨拶すればいいのか分からなかった。
ので、挨拶の代わりに
鮭を手土産として蛍に持たせた。
別れぎわに、五郎は蛍に叫んだ。
「蛍。いつでも富良野に帰って来いよお」
くるっと振り返った蛍は
泣きながら走って五郎に身を投げた。
それまで我慢してきたものを
涙といっしょに吐き出した。
娘は、蛍は、
五郎の宝物であった。
その光景を見ていた純は
何を思っていたのだろう。
・湯けむり
強くなった蛍。
優しくなった父さん。
それにひきかえ、まだシュウの過去にこだわる純。
街中で会っても避けている、ヘタリの自分がいた。
れいが、早朝に電話してきた。
「純くん。今日、結婚するの」
「おめでとう、よかったよ」
「ほんと言うと怖いの。そばに居てほしい」
「卒業のダスティンホフマンのように
れいちゃんを誘拐してやろうか」
「そおして」
結婚式のれいちゃんは綺麗だった。
木陰から見送っていた純は、映画のようには出来なかった。
雪のふる山中に湯けむりがのぼっている。
どこかで見かけた人たち。
五郎とシュウだ。
「いいなあ、最高だ」
「ほんとう。最高!」
「純とはうまくいってるかい」
「ダメになるかも」
「何かあったのかい」
「昔のこと、気にしてるみたい」
会話は途切れた。
いつも会っている仲間たちが
よりによって入って来たのだ。
父さんと娘に化けるふたり。
通りかかりの他人になるふたり。
シュウは、先にあがった。
おあとがよろしいようで。。
ワイパーにメモが挟んであった。
「会ってください・・・シュウ」
そっけなくポケットに入れた純。
仕事から帰ってきたら五郎と正吉がいた。
察しはついたが、なにも言わずに手を洗った。
「純。まだ間に合うさ」
五郎はやさしく言う。
下着を脱いで洗濯機に放る純。
「きっと待っているよ」
正吉は口を出さない。
「な、父さんおくってってやる」
セ-タ-を着ながら
「もう9時半だよ。3時間半経ってるんだ」
「絶対待ってる。父さんにまかせろ、純」
約束の喫茶店にポツンとひとり、シュウはいた。
五郎の車に純がいる。
五郎は純に笑いかけ、うんうんとうなずいた。
ドアを開け、喫茶店に向かって歩き始める純。
シュウと何か話している純が、ふたりが見える。
排気煙を上げながら
五郎のトラックがゆっくりとUタ-ンしていた。
あえて、ラストシーンまでは書きませんでした。