猫は、わが家の大将 愛しの「ryu」に指先はそっと触れて・・・

今までに、三匹の猫を飼ってきました。

「ふじ」が初めて飼ったメス猫です。

額に浮かぶ真っ白い富士山。

名前の由来です。

子供のおもちゃにされたり、

冬のころの炬燵代わりにされたりと

「ふじ」にとっては、いい迷惑だったでしょう。

これといって、目立つ存在ではありませんでしたが

そこにいるだけで安心させてくれる、家になついた猫でした。

二番目が、「みみ」。同じくメス猫でした。

耳が可愛らしいと、おふくろが名づけ親です。

「ふじ」も、「みみ」も、

不妊手術をしてあげていませんでした。

とくに、「みみ」には

私が君の赤ちゃん猫を殺した、苦い罪が消えません。

君の亡骸のそばで、ひと晩一緒に寝ました。

ありがとうな、ごめんな。みみ・・・

目次

・初めて飼ったオス猫

四国は飯山町生まれのその猫は、

数匹の兄弟のなかにまじって目立たぬように

逃げ隠れしているばかりの仔猫でした。

「みみ」の死後、ポカンと空いた寂しさは

単純に死んでしまったことへの無念そのもの。

たまたま、出張先で『ペット譲ります』の広告をみたのが

「みみ」の死後、3カ月目のことでした。

恋人の冬美といっしょに、仔猫をもらいにいきました。

冬美がいち早く、その仔猫に目をつけたことが

何よりの幸運だったと、私は思っています。

どの仔猫でもいいから、といういいかげんな私に対して

冬美のオス猫を見分ける審美眼は、鋭いものでした。

そうなんです。

三匹めの仔猫は、オス猫だったのです。

オスのシンボルを目ざとく冬美が見つけた。

なんてこと、口が裂けても言えませんが。

四国・高松からフェリーで岡山までの間に、

仔猫に名前を付けていました。

ryu 

飼い主からペルシャとアメショ-の混血だと、聞いていました。

全身にふさふさしたベ-ジュグレ-の毛並み。

尾っぽが長くて太く、小顔でくりっとした目。

耳の中から、そびえ立つ毛があふれている。

龍のツノ、龍の髭のイメ-ジからひらめいた、という冬美が名づけ親です。

・笑う猫

仕事から帰宅すると、ドアを両手でこじあけてryuのお迎えです。

逃げ防止に、首輪からリ-ドをつけた腕白が飛び出して

後ろ足でひょんひょん飛びながら、両手でチンチン。

犬の芸をパクリながら、笑って「な~ご」。

いっぺんに、疲れなど忘れてしまいます。

ryuの笑いには、3つのパタ-ンがあります。

1,開放的な愛くるしい笑い。

  目もと、口もとともに笑います。
  調子に乗って、歯を見せて鳴きながら笑う時もあります。

2,おねだり、おもねり笑い。

  上目遣いに、甘えてへつらいながら気をひくときの笑い。

3,真逆な笑い。

  ryuは役者です。笑っていると見せて、突然かみつきます。
  これには、親父もおふくろも、私も、よくだまされました。

1~3のパタ-ンを組み合わせて、人を手玉にとるニクイ奴。

手玉にとられる人も、最後には笑ってしまうのですから、隅におけません。

・リ-ドに繋いで散歩

男前のryuは、異性にモテます。

毛並みも、ペルシャ・アメショ-のジャニーズ系です。

ヘンな異性とお付き合いしないように、

鉄の重石にリ-ドをくくり、首輪と繋いでいます。

散歩させるのは私です。

普段は、家のまわりをおしっこさせながら15分ほど。

私が休みの日には、田畑をあっちこっち振り回されながら。

50歳頃に、難病に罹った私にとっても、いい運動になりますね。

ryuが、5歳くらいの頃です。元気いっぱいのころでした。

箱入り息子のryuにさせたのは、私です。

・逃げた!

ryuの名付け親でもある冬美も、よく遊びにきました。

抱っこしたさに、ささみ肉やらペットフ-ドやら持って

ryuの猫毛を気にしながらも抱きしめて頬ずりしていました。

箱入り息子のryu.

腕白息子のryu可愛さの人のエゴは、裏切られるのが当たり前です。

隙を見て、逃げ出したときは家族中がryu探しにひと騒動します。

日が落ちて、辺りが見えないときなどは

「ryu ryu ryu・・・」と、近所の目を気にして小声で呼びながら

懐中電灯を手に、そこら中探し回ります。

でも、見つかりません。

お前が悪い、あんたが悪い。

え~い、くそったれ!

探し疲れて、途方にくれている親父、おふくろ、私。

「な~ご・・・」

どこからか音もなく帰還した奴は、ぺろぺろ水を飲んでいる。

ryu!!

人騒がせな腕白息子を目にすると、よかったよかったよかった。

言いながら、目尻にしわが一本追加されるおもいでした。

逃走劇の結末は、腹が減ったら帰る。

だいたいこのようなものでありました。

・夜遊びの果て

婚活時期にあたる春のころ、また奴は隙を見て夜逃げしました。

どうせ、腹が空いたら帰ってくる。

そう思って、専用出入り口だけは開けて

探すのを中断し、寝てしまいました。

夜中にトイレに行った時、ryuはまだ帰っていません。

どこからか、喧嘩しているようなふざけあっているような鳴き声。

すこし心配はしましたが、まあ、楽しんでこいよryu、、、

朝になってもryuの姿はありません。

ブスッと新聞を読んでいる親父。ポカンとテレビを見ているおふくろ。

その空気を察し、居候の私は、また二階に上がって寝床でごろり。

うとうとしていたら、

「ryu!よお帰ったなあ・・・」

「ryu!!やられたんか?」

おふくろと親父の声に誘われるようにして、降りていきました。

ryuは、食事の真っ最中。

ひたすら食べて食らって水を飲む。邪魔するな!

「な~ご」 腹いっぱいのゲップはおつり。。

顔中、傷だらけ血だらけ。

体のあちこちも傷だらけ、所々、毛がむしり取られていた。

「ryuも男になったんじゃのお。よっしゃよっしゃ」

一杯機嫌の親父を無視して、おふくろは

「よしき、医者医者!」

私は、ryuをそっと抱いて車で犬猫病院へ。

「な~ご」の声はしません。

窓外に流れる景色に驚き、

仔猫のころのように、隅っこに隠れてしまいました。

「ryu」

ミラ-には、

いつのまにか恐る恐るガラスをカリカリしている奴が。

・病に臥すも

メスを奪い合う男のケンカは、猫も人も同じです。

ボス猫に無鉄砲に挑み、やられはしたryuの傷。

「ようやった。男の勲章じゃ」

言葉にはしないが、親父の目は細く笑っていました。

あのような傷だらけのケンカは、たまにありました。

それでも、病院治療と薬のおかげで10日もすれば、

ryuは復活し、一段と色男に磨きがかかったように見受けられました。笑

そんな頃です。

猫トイレに踏ん張って、用を足そうときばっているryuがいます。

便秘らしく、トイレには尿も便もほとんどありません。

苦しんでいるryuを診てもらうと、腎結石と診断されました。

放っておくと命にかかわる病気だと言われ、手術を受けることに。

 
1週間、入院しました。

見舞いにいくと、何十匹もの入院患者のなかにryuはいました。

かなり痩せています。

「ryu」と、声をかけると

じっと私を見つめているだけです。

もう一度呼んでみると、

微かな鳴き声をもらしたように見えました。

うん。うん。、、、なあ、ryuよ・・・

後ろ髪を引かれる思いで、その場を後にしました。

帰宅して、親父とおふくろに話しました。

二人とも、あまり何も言いません・・・。

病院から、ryuが帰ってきました。

抱きかかえながら、家の中にそっと放してやります。

よろよろと歩きますが、こけます。

また歩き出して、よろっとこけてしまう。

小さく気合を入れて、か細く

「な~ご」

たどり着いた先は、カップに入っている水。

上品にペロペロ舌先で舐めます。

尻尾がピクッと反応しますが、

ピチャピチャ飲み続けます。

親父もおふくろも私も、ryuを見つめていました。

嫌がるryuに、3種類の薬を飲ませます。

私が口を開かせ、そのスキにおふくろがポンと入れる。

よだれ交じりにすぐ吐き出します。もう一回、もう一回、、、

カプッ。

噛まれました。

「ryu!」

おでこを軽く叩きます。

やっと、飲ませる事ができました。

知らんぷりの親父は、焼酎をうまそうに飲んでいます。

「ryu!」

声を掛けられて、

「な~ご」

久しぶりの笑顔を、親父に返しました。

明け方に、灯りが洩れています。

覗いてみると、

すやすや眠っているryuのそばで

とろんと、酔い覚めの眼差しを注いでいる親父がいました。

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